『わしは酒もタバコもやらんし肉も食わん。わしはな、労働者の味方なんだ』……『アドルフに告ぐ(手塚治虫、文藝春秋、敬称略)』に、そんなヒットラーの台詞があった。第二次大戦を通じて、ナチスドイツは極端に犯罪の少ない国家だった。ちなみに同時期のファシストイタリアはマフィア根絶計画を実行し危うく成功しかけた。
ことほど左様に『清潔な』社会は人間性を焼き潰す。戦前の話だが、アメリカ合衆国でさえ禁酒法で自ら大混乱を招いた。本作はそうした歴史的事実や昨今の極端な反非衛生嗜好への風刺でもあり、個人の自由はなにがしかの混沌に結びつかざるを得ないという諦感でもある。その意味で、肉の供給源に牛ではなく豚を使うのは実に象徴的だ。
最後には、『清潔な』ウイルスが地上を支配するかもしれない。