第56目 三儀vs白主①

「「ダイスダウン」」


 三儀と白主は、互いに二つのダイスを降った。

 ダイスを二つ使うことが、白主の提示した闘いを受ける条件だった。


 三儀は、それをのんだ。

 のまざるをえなかった、というのもあったが、それだけではない。

 三儀にとっても、二つのダイスが使えるというのは、これ以上のない好機こうきだった。


 三儀の手には、『DOG』と『WING』があった。

 白主を倒すためには、今の自分を超えなければならず、超えたとしてもなお、ささやかな可能性しか見えない。

 この手に残された二つのダイスは、その勝利へと続く可能性そのものだった。


 だから三儀は、その可能性を力強く降り、“役目負いキャスティング”させた。

 『DOG』はその気持ちをくみとったように、大会で見せた“ハネツキドッグ”となって、白主と白主のダイスをにらむ。

 三儀と『DOG』は会話こそできなかったが、自然と心は通い合っているようだった。


 このダイスダウンに勝って、すべてを取り戻す。


 三儀も『DOG』も、もうそれしか考えていなかった。

 それ以外にはもう、戻る道も進む道も、残されてはいなかった。


 一方の白主は、転人との闘いで見せた『DISASTER』と、二王との闘いで見せた正体不明のダイスを降っていた。

 どちらも空中に浮きとどまるだけで、“役目負いキャスティング”らしい“役目負いキャスティング”はしていない。


 だが三儀は、それが“そういうもの”であることを知っていた。

 白主は形を取るダイスを好まない。

 だから今のあの状態が、ある意味で“役目負いキャスティング”した状態だといってもいいのだろう。

 一時も油断できない状況だった。


「玉子さん、そんなに肩肘かたひじをはらないでください。取って食ったりはしないですよ」


「あなたこそ、嘘なんか吐かなくていいんですよ。私が負けたら取って喰われることくらい、もう知っています」


「そうですか、それは困りましたね。こちらの手のうちがバレているということは、きっとこれもご存じなのでしょうねぇ」


 白主は右手をあげ、人差し指をまっすぐに立てた。

 『DISASTER』がその指の上へと動き、そこで回転をし始める。

 ばちっ、ばちっと『DISASTER』のまわりで光がまたたき始め、そのたびに暴力的な明るさがあたりに広がる。


 知っていたとしてもまばたきをきんじえないまぶしさだった。

 にもかかわらず、三儀はまったく意に介する様子を見せていない。

 三儀の目にもその光は確かに届いているはずなのだが、彼女はまっすぐ白主をにらみ続けている。


 『DISASTER』の光は、徐々にその範囲を広げていき、“ハネツキドッグ”へとせまっていく。


「ドッグちゃん、さけて」 


 “ハネツキドッグ”はその光を、軽いステップでさけた。

 続けざまにくり出される光をすべてさけながら、段々と白主のほうへと近づいていく。そして、いつかと同じく、『DISASTER』を見上げる位置にたどり着いていた。

 あのときと違うのは、今の『DOG』には『WING』がある。


「その羽で空を飛び、地震をさけようということですか」


「そうです。地震はもう怖くない。雷をさけて、その『DISASTER』の首を取ります」


「なるほど、考えましたね。しかし、私も舐められたものだ、今までの雷が本当の雷だとお思いですか? 本物というのは、こういうもののことを言うのですよ」


 白主は、まるで臣下しんかに命をくだすかのごとく、右手を開きながら前へと伸ばす。

 それに従って、『DISASTER』は空高くにあがり、“ハネツキドッグ”の頭上をこえ、白主と三儀の中点に飛ぶ。“ハネツキドッグ”もそれを目で追いながら、後ろ足を曲げて、飛びかかる体制を整える。


「では、いきましょう。くれぐれも、お気をつけくださいね」


 『鳳凰ほうおう雷儀らいぎ


 黒い雲が『DISASTER』から吹き出し、天井を覆う。

 強い光が雲間くもまから漏れてくる。

 その光量に、まばたきだけでは足りず、思わず目を覆いたくなってしまう。

 そのとどろきに、強く耳を塞ぎたくなってしまう。

 強烈な雷の気配に、ピリピリとした感触が走り、総毛そうけつ。


「ドッグちゃん!」


 三儀の声が届く前に、見るだけで痛みを覚えてしまうような鋭い光柱こうちゅうが、“ハネツキドッグ”を襲った。

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