第5降 まだ間に合うわよね

第34目 穂ノ瓜炎土は燃えたぎる

「ダイスダウンの新たな夜明よあけ!

 運試うんだめしならぬ腕試うでだめし!

 新春しんしゅんダイスダウン大会も、ついに決勝戦となりました!


 勝ち残ったのは、このふたり!


 前年度大会で驚異の力を見せつけ、みごと優勝を勝ち取った男、五ノ目生徒管理役委員会、通称『首貶役くびおとしめやく』員長である、穂ノ瓜ほのうり炎土えんど選手!


 そしてもうひとりは、闘うたびに違う顔を見せつけてくる『変幻へんげん自在じざい奇術師きじゅつし』、春叶浮梨選手!


 両選手、すでにダイスを降るかまえを取っております。

 炎土選手は上体を落とし、ダイスを持った腕をさげながら、浮梨選手をにらみつけています!

 一方の浮梨選手は、そんな彼の情熱的な視線もどこ吹く風で、涼しい顔をして――いるのかもしれない!

 おろした髪とメガネで、実況席からはその表情がうかがい知れない!

 うかがい知れないが、彼女のその立ち姿、雰囲気だけで、十分にそれがわかる、わかってしまう!


 対照的なふたりの姿。

 その闘いが、今、始まろうとしている。

 大会運営委員が闘いの狼煙のろしをあげるために、今、腕を大きくふりあげて……おろした!


 ダイスダウン!


 炎土選手はさげていた腕をふりあげて、ダイスを転がし入れる!

 彼のそのアッパーカットは、まごうことなき炎の柱!

 そこからくり出された彼のダイスは、文字どおり炎の車となって、フィールドを走り転がっていく!


 一方の浮梨選手。

 ゆっくりとした動作で、ダイスを投げ入れた。

 彼女のダイスは、炎舞いあがる中、静かに転がっていく!


 彼女のダイスは『変幻自在』!

 本大会で見せた彼女の闘いをふり返ってみましょう。


 初戦はフィールドに草木を生やし、ツタを相手のダイスに絡ませて絞めあげるという闘いを見せてくれた!

 次戦は、なにもない場所に火を起こし、舞いあがる火の粉で相手をノックアウト!

 戦術の変わりっぷりに誰しもが驚かされた!

 果たして、今回はなにを見せてくれるのか!

 同じように草を生やし、火を巻き起こすのか!

 しかししかぁし、残念ながら、それでは前回覇者はしゃの炎土選手には勝てない!

 彼のダイスは、まさしく炎!

 草など燃やしつくしてしまうでしょう!

 火など飲みこんでしまうでしょう!

 彼のダイスのほうが圧倒的だ!

 果たしてこの闘いは、どうなるのだろうか!


 さあ、浮梨選手のダイスが転がった先に、炎土選手のダイスがせまる!

 ついに、両者のダイスがぶつかり合う!


 そして、そして……ん、なんだ? なにも見えなくなった!

 塵か煙か、あたりが靄に包みこまれて、どうなったのかわからない!

 静まりかえるフィールド!

 さっきまで走り回っていた炎土選手のダイスはどこにも見えない、音も聞こえない。

 もちろん浮梨選手のダイスも見当たらない。

 靄の中でなにが起こっているのか!


 おおっと、ここで風が吹いてきた!

 段々と視界が開けてきた!

 どうなった? どっちが勝った?

 靄の晴れたフィールド!

 その真ん中には、ダイスが一つだけ!

 残ったダイスは……浮梨選手のダイスだぁああ!

 炎土選手のダイスは……フィールドのどこにもない!

 どこかに飛ばされたのか、それとも溶けてしまったとでもいうのか!


 一瞬の決着!


 彼女の奇術師ぶりに誰もが唖然あぜんとしたことでしょう!

 からめ手ではなく、真正面からぶつかり合うという裏切り!

 その裏切りに驚きを隠せない!

 意外!

 あの炎土選手のダイス相手に、真っ向から競り勝つという闘い!

 奇をてらわずとも勝てると、この決勝戦で浮梨選手は証明した!

 これは……そう、まるで雲。

 奇術で目をくらましたかと思えば、まっすぐに弾き飛ばす!

 その闘い方は『つかみどころのない雲』!

 その雲の切れ目から顔をのぞかせたのは、勝利という名の日の出だった!


 新春ダイスダウン大会は、春叶浮梨選手の優勝だぁああ!」

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