第2降 私の妹になりませんか?
第10目 私の妹になりませんか?
ここは一ノ目高校の、生徒会室。
廻転人がダイスダウンで勝利したのは
あれから転人は、いつもと変わらない一日を過ごしてから、いつもと違ってここに来ていた。
喝采三儀と願石幸鉄もここにいる。
願石は転人と同じように授業を受けてきたのだろうが、三儀はどうしていたのだろうか。いつの間にか、どこからかぴょこっと現れていた。
転人たちが集まった理由は、この部屋の
呼び出した当人は、目の前の
転人の前には巨体の願石がいるため、生徒会長の姿が見えない。見えないが、そこにいることだけは、なぜだかはっきりとわかる。
願石を越える存在感がある、ということなのかもしれない。
三儀は転人の横に並んで立っていた。
生徒会長が見えないからか、しきりに願石の向こう側をのぞこうとしていたが、何回か試して無駄だと
「そうですか。許可無くダイスダウンアリーナを使用したと」
生徒会長の
今朝のダイスダウンが原因らしい。
静かな声だったが、重く鋭く
「そう……いうことになります」
願石は、その
「で、ですが、私は首絞役員であり、NOQSの
「ええ、そのとおりです。ですがそれは、報告もなしになにをしてもよい、ということではありません。ここは学校なんです。経営こそNOQSが行っていますが、会社ではないのですよ。私たち生徒が作りあげていくべき場所なのです。だからこそ、生徒会が生徒の活動を取り
「それは、ごもっとも……です」
願石はぐうの音も出せない様子だった。
「結果的に
「はい……申し訳なく思っております。今後はこのようなことがないよう、ご報告を徹底いたします」
願石は、
「よろしい」
生徒会長の声とともに、パンと手を打つ音がした。
「ま、やっちゃったものは仕方ないですからね。
一転して、生徒会長の口調は軽くなっていた。
存在感からもピリっとした堅さが消え、柔らかく優しい
「
願石は、そんな生徒会長に対しても、姿勢を崩さずに返事を返す。
「――ところで、結局のところ、そのダイスダウンの結果はどうなったのですか?」
柔らかくなった生徒会長は、身を乗り出すかのような声を出した。
その質問に対して、言いにくそうに願石は答える。
「……私が負けました」
「願石さんが?」
「はい」
「ということは……廻さんが勝った?」
「……はい」
「廻さん」
ひょこと願石の横から人間が生えてきた。
ウェーブがかった
彼女が、ここ一ノ目高校の生徒会長である、
「願石さんを倒すなんて、すばらしいです」
「あ、ありがとうございます」
「ですが実は、私は意外だと思っていないんですよ。『
「はあ」
転人にはそんなつもりは
「生徒会長、そのダイスダウンの結果についてですが」
願石が身体をかたむけたままの浮梨に声をかける。
「なんでしょう」
浮梨はそのままの姿勢でそれを受ける。
「ご報告のとおり、彼とのダイスダウンで私は敗北しました。そのダイスダウンには、私は『首絞役』として
願石も姿勢そのままに、片方の手を
「一つは、彼の持つダイスです」
「その中にはダイスが入っているのですね」
ケースを見て、浮梨は「ふむ」とうなずいた。
「そして、もう一つは、彼女です」
願石は、もう一方の手で、転人の横にいる三儀を指した。
「彼女?」
浮梨は転人の前から消え、今度は三儀の前に生えるようにして現れた。
三儀の顔を目にして、そして、少したじろいだ。
無理もない、彼女は、あの喝采三儀なのだ。
「初めまして、春叶浮梨さん。私は喝采三儀と申します。日ごろから、一ノ目高校の生徒会長という
「……いえいえ、こちらこそ、お世話になっております」
さすがの浮梨も、彼女にどう
「願石さん、状況をすみやかに教えていただけますか、できるだけ詳しく」
「
願石は三儀がここにいる理由を、ダイスダウンを行うにいたった
「……そういうことね」
浮梨は、願石の話を聞いたあとで、少しの間を持ってからそう言った。
それから、本日二度目のパンという音。
浮梨の雰囲気に堅さが戻った気がした。
「わかりました。彼女とダイスのことは、全校をあげて
「いえ、そこまでのことは必要ないかと。私たち首絞役員からの解放が“
「そうはいきません。ダイスダウンのことが少しでも噂されれば、それだけで彼女たちの自由は
「ならば、その処理も私が」
「どうやるというのですか。願石さんは首絞役員です。なにをやるにせよ、どこかで上とつながってしまう可能性があるでしょう?」
「それは……そのとおりですが」
「ここはまかせておいてください。生徒のために動く、それが
少しおどけた調子で浮梨は言う。
ここはNOQSの経営する学校なのだから、生徒会だとしても
だから浮梨の言葉はあからさまな
おどけてみせたのは、その労力を感じさせないためかもしれない。
願石はその方便をくんでか「承知しました」とだけ言葉を返した。
「あ、あの」
三儀が、ためらいがちに声をあげた。
「お気を回してくださっているところに恐縮なのですが、私は一ノ目高校の生徒ではありません。ですので、これ以上のご迷惑を、みなさまにおかけしたくはありません」
「そうですね……では三儀様、この
「え!? あ、いや、……高校生? だなんて……そんな……」
浮梨の申し出に、三儀は
ただ、なぜか嬉しそうだった。
「嫌ですか」
「嫌ではないです! ですが、そんなことができるんですか? 年齢的にもまだ……」
「できないなんてことはありませんよ」
「でも……お手間をかけていただくほどのことでは……」
三儀の言葉をさえぎって、浮梨は「そうだ」と手をぽんっと打つ。
「三儀様は、今はどこで暮らしていらっしゃるんですか? “
「いいいえいえいえ! そそそんなことはありません!」
全身を使って、あらんばかりの
ちらちらと転人を見る顔が、少し赤くなっていた。
「あのその……最近は、ずっとホテルに
「そうですか。でしたら、ちょうどここに、ほどよいご提案がございます」
「なんでしょうか」
「今日から、私の妹になりませんか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます