第9目 転人vs願石
願石は、
ダイスは、その大きさに似合わず、勢いよく転がっていく。
「これは、貴様への
願石のダイスは、転人の前まで転がり、六を出してとまった。
「私がダイスを降ると、その多くが六となるのだ」
『
「これで貴様も六を出さなければ、私の勝ちとなる。このまま
そんな願石の
これを降れば終わる。
彼女も、あのダイスも、自分自身も、すべてが終わってしまう。
結果は決まっているんだ。
一しか出せない。
だからこそ、手は動かない。
ダイスは動かせない。
守りたいものが。目の前でまた消えていく。
また飲みこまれていく。
結局俺は、なにも守れない。
なにもつかめない。
〈――本当に?〉
どこからか声が響いた。
誰だ?
まわりを見回しても、声の
〈――本当に、つかめていなかったのか?〉
それでも声は響いてくる。
誰なんだ。
なんなんだ。
〈――その手は、本当に、なにもつかんでいないのか?〉
声が響くたびに、転人のその疑問はかすれていき、段々と声の言わんとしていることに向かって、意識が
声のままに、転人は伸ばした手を握りしめる。
〈――主は、本当は、つかんでいたのではないのか?〉
転人には、不思議な確信が
手の中のダイス。
このダイスでなら、願石に勝てる。
このダイスでなら、世界をひっくり返せる。
〈――本当に大切なものは、すでにその手の中にある〉
「うおおおおおお」
このダイスで、願石に勝つ。
転人は声に導かれるように、ダイスを大きくふりかぶる。
そして、願石のダイスに向かって、そのダイスを降った。
転人のダイスは、一直線に願石のダイスへと飛んでいき、その大きさをものともせず、願石のダイスを
「貴様、なにをする!」
転人はそれに答えない。
「……なるほど。出目では勝てないとわかって、私のダイスを場外へと飛ばすつもりだな。だが、そうはいかん! そちらがそのつもりならば、こちらも
願石は、空中へと飛ばされた自身のダイスへ向け、腕をふりあげる。
「私が『
願石の声に呼応するように、彼のダイスが
何倍にも
「貴様のダイスは、
『
今までで最も大きな声で、願石は叫んだ。
ダイスと同じように自身を何倍にも大きくし、地面に
その腕の動きに合わせて、巨岩となったダイス『ROCK』は、
転人も三儀も首絞役員も、大地までもが、その
このままでは、転人のダイスは、
三儀は、そう思った。
ただ転人は、違った。
転人のダイスは、願石のダイスに比べてとても小さく、震えるほど弱々しい。
だが、
勝てる。
どんな強大な力だろうと、俺のダイスならば、ひっくり返すことができる。
世界をひっくり返せばいい。
一を六に、負けを勝ちに、ひっくり返してしまえばいい。
〈――ひっくり返すか。なるほど面白い〉
声は、転人の考えを読みとったように、にやりと笑うようにそう言った。
「これで、私の勝ちだ!」
願石が
願石のダイスが、転人のダイスを押し潰す。
三儀は、
強く両手を握り、見開いた目は潤んでいた。
勝負の決着を、告げなければならない。
それが私の役目であり、覚悟だ。
そう三儀が
「それはどうかな」
転人の声は小さかったが、驚くほどクリアに響いた。
願石のダイスの下から、光がまたたいた。
放射状に広がった光は、
次の瞬間、願石のダイスは弾かれるように上空へと飛ばされていた。
鉄をもこえる大岩となったそれが、
願石の頭上をはるかにこえて飛んでいき、フィールドをぐるりと取り囲む観客席の上空まで飛ばされていた。
なにが起こったのか、誰にもわからなかった。
「どういうことだ!? なぜ私のダイスが!?」
上空に舞いあがった願石のダイスは、そのまま観客席へと落下していく。
落下とともにその身が削られ、まさしく隕石が
アリーナにいる皆が、その様子を目で
「そ、そんな、バカな!」
転人のダイスは、一の目を出して、フィールド上に
対して願石のダイスは、目を出せずにフィールド外へと消えていった。
一、対、出目なし。
「俺の勝ちだ、願石幸鉄。約束どおり、ダイスと彼女を自由にしてもらうぞ」
願石は、転人をふり向き、心からの叫びをあげた。
「どうなっている! なにをやったというのだ……! そのダイスは……いったいなんなのだ!」
「このダイスは……世界をひっくり返すダイス、その名も……」
そういえば、ダイスの名前を聞いていなかった。
転人は三儀に、身ぶり手ぶり顔ぶりを使って、それを聞く。
三儀はそれを見て、その思いをくみ取り、なにかを考えるような素ぶりをする。
そのまま少し悩んでから、なにかをつかんだように、ぱっと顔をあげた。
「そのダイスの名前は、
もちろん、三儀の声だった。
……いやいや。
「そんなわけが……」
〈――ほう、私は『
どこからともなく聞こえてきた声とともに、転人のダイスは、まさしく犬へと姿を変えた。
「…………」
犬となったダイスは三儀のところへと
三儀はかがんで、その頭を優しくなでている。
「とってもかわいいです」
三儀は、満面の笑みを浮かべていた。
その光景に、願石はもちろん、そのほかの首絞役員もなにも言えず、動けずにいた。
「……とりあえず、
転人は、彼女と同じように顔をほころばせながらも、
「そそそうでした、そうですよね」
彼女は
ただ、その顔には、もう悲しみは浮かんでいなかった。
喝采三儀は、澄みきった声で、その場にいる全員に告げる。
「勝者、廻転人。これにて、本ダイスダウンは決着とする」
転人は、その伸ばした手で、ようやく大切なものをつかんだのかもしれなかった。
そしてこれが、廻転人の負け続けの人生の終わりであり、
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