249.グレイスランド魔法師団

 ――グレイスランド王国魔法師団。


 グレイスランド内外から最強の魔法師を集めた戦闘集団。

 その活動場所は国内に限定されないが、対国とする戦争行為には一切加担しない。


 数ある優秀な魔法師が、ここに所属するのはなぜか。

 その理由のひとつに、いくつかの条件を満たせば、グレイスランド国籍が取得できるというものがある。

 

 特に未成年者の場合、成人を迎えた年に一定の所属年数と団長の推薦があれば、グレイスランド国籍を得られる。成人を迎えて所属した場合は、年数とかなりの条件が課せられるが、それも不可能ではない。


 ――グレイスランドでは医療費と教育費は概ね無料であり、育児と介護は国の責任で行う。法や社会構成は、最も弱者の立場を基準に制定されている。またメンタルヘルスや予防医療に力を入れている。

 特に教育には力を入れており、教育費が無料でありながら、学位やそれに相当する資格を取ったものほど給与に反映される。

 その分国民の税金も高いが、他国より最低賃金は倍以上に高い。それは労働者のレベルを高く設定しているからだ。専門家を育てることに国が力を注ぎ、プロには相応の対価を払うというのが原則。

 国民の自由意志を尊重する一方、思考力、判断力を必要とし、議論し決断したことに対する責任も課している。


 また四季があるが年間を通して比較的温暖な気候であり、起伏の緩やかな肥沃な平原をもつ恵まれた大地。天災もさほど多くない。

 それらは、光の主と四獣の恩恵を得ているというのもある。


 だがそれ以上に戦乱がない。千年前の大陸全土にわたる大戦後、いくつかの内乱もあったが、他国からの侵略はない。


 それは、グレイスランドの魔法師団という守りがあるからだ。

 師団の給与は他の魔法師よりも高く、上級魔法師マスター以上であれば地位も給与も高く設定され、その他特権も得られやすい。


 師団では、団長命令には絶対服従ではあるが、各魔法師の裁量権は高い。

 実力があれば、のし上がれる。魔法師としての能力があるほど、高く評価される。

 

 そのために国外でも優秀な魔法師がグレイスランドの国籍取得を得ることと同時に、グレイスランド魔法師団に所属することを望む。


 だが、問題もある。

 それは、国外の魔法師をグレイスランドの防衛に加えるという危険性だ。


 基本的に、グレイスランド魔法師団は他国間の戦争介入は行わない。だが移民――他国の出身者が、祖国が別の国と開戦した際に、その紛争(戦争介入に似た)に援助要請が師団にもたらされる場合がある。

 その場合は、師団から抜けるか、または作戦に介入しないか当事者の団員に選択を迫られる。


 また、グレイスランド魔法師団の最終目的は、グレイスランドの防衛だ。

 もしグレイスランドが他国からの侵略にあい、戦争になった場合――所属する団員がもとは移民であり、祖国とグレイスランドが対立関係になった場合、同じように脱団するか介入しないか、大きな選択を迫られる。


 だがグレイスランド魔法師団に所属し、グレイスランド国籍を取得すれば二択はない。グレイスランドへの絶対忠誠――裏切らないという魔法の縛りつきの誓約が課せられる。


 その縛りを受け入れられない限り、国籍を得られないし、幹部への道は閉ざされる。


 ――しかし、本当に祖国を裏切らないでいられるのか。

 いくら誓約魔法による戒めがあっても、師団内部での裏切り行為が行われないという保証はない。そこに二重の縛りがある。


 ――グレイスランド魔法師団は、表の派手な活動(主に戦闘行為)の裏では、大陸全土に渡り諜報活動を行う。専門の魔法師が全世界に一般人のように身を潜め、ネットワークを構築し、その情報は団長に集約されている。


 その実情は、リディアには全く知らされていない。


 情報を制するものが世界を制する。それは、魔法よりも機械よりも強い武器となる。


 ――もし戦争が起きそうな匂いを嗅ぎつけた時。元移民の団員たちは、怪しい影を見つけた場合、戦争回避のために動く。表立っての戦闘は最終手段だ。


 団長を筆頭とする幹部に情報を集約させ、戦争回避のための情報戦を行う駒となる。

 祖国との天秤にかけられたくない、祖国と争いたくない、そしてグレイスランドを裏切ることは絶対にできない。


 グレイスランド魔法師団に入る、グレイスランド国籍を取得する、それは大いなる夢だ。その夢の影で、彼らはグレイスランドを守るための枷をつけられる。

 いわば、人質だ。けれど自身が望んでなる贄だ。


 祖国を、祖国に残した家族を、友人を。彼らを守るため、彼らと戦うことを回避するために動くことが、グレイスランドを守る壁になるのだ。

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