236.stand up for catch up with you
――防御幕は、攻撃を受けるたびに疲弊し効果が薄れる。魔法師本人の魔力と忍耐力、動じない強靭な精神が必須だ。
ただ張ればいいものではない、それに加えて防御幕の精度が最も重要だ。
だが
(だったら……)
「――それは、お前個人の依頼か? それとも第一師団からの正式な依頼か? リディア」
第一師団の
いや、既に彼は
「私個人での依頼です、ワレリー団長」
あちらがリディアをファーストネームで呼んだということは、個人的な関係としての会話が許されているということ。だが交渉に、甘えは許されない。
「それに伴うリスクは考えているんだろうな」
リディアは頷いた。
「本来各師団を超えて、助力を乞うのは異例のこと。しかも団長間での話ではない。個人が願い出るのはすべての段階を無視しています。ですが、うちで話し合っている時間はない」
「あとで、面倒なことになるぞ」
「処分は受けます。限られた人数で最強レベルの防御幕を張れるのは、第三師団だけです。その間に私が甦生魔法でマクウェル団長を治します。転移陣、および防御幕を張れる魔法師、二名をお貸しください」
「その話だと無理があるな」
リディアはただ青ざめた顔で、ワレリーを見つめるだけだった。いくら目をかけてもらえていても彼は長だ。私情だけで動いてくれるわけではない。
「――ハイディーと話せ。人員と人数を詰めろ。いいな」
「はっ」
戦略担当のハイディーを貸与してくれた、ということは、この案は承認だ。
リディアは後ろに控えるハイディーを振り返った。
美麗な顔に浮かべた柔らかい笑みが返ってきたが、その目は鋭い。頼れる戦友にリディアも感謝を込めて頷いて、ワレリーに頭を下げて出ていこうとしたとき麗しい声がかかる。
控えていた副団長のローゼが「リディ」と声をかけた。
リディアは振り返る。
団長かそれ以上に、作戦遂行において考えられるリスク回避策の追及に厳しい彼女だ。
「その決意は、公私どちらのもの?」
リディアが考えた時間は、ほんのわずかだった。
「――私情も入ってます。ディアン先輩に死んでほしくない。でも、総合的に考えて彼を失うのは今後の師団には痛手です。第一師団は使い物にならなくなる。その分、第三師団がカバーすることになる。そう考えたら、今
ワレリーを動かすために考えた説得を告げる。
だがワレリーは微かに笑うだけ。それよりも、ローゼは違う部分に引っ掛かったようだった。
「わかってるようだけど、わかってない。うーん、まあいいか」
「ローゼ?」
「死んで欲しくない男のために、規則破りもする。でもその理由の自覚はまだない、かな」
「おい。やめてくれ。俺は認めんぞ!」
ローゼは笑って、ふふっと己の紅い唇を指でなぞる。
整えられた指は、戦士のものとは思えないほど美しく妖艶で、同性のリディアでも、くらくらするほど色気がある。
今もつい、その唇を凝視してしまった。
「あとは、
「ええと、何か――大変そうですね」
何かディアンに試練が追加されたようで、少し申し訳なく思う。
ディアンは、第三師団の副団長であるローゼを苦手としている。
何かと用事をつけては、会うのを避けているようだ。
色気と美貌はたっぷりで、抜群のスタイルはディアン好みのように思えるのだが、彼女はディアンを全く男として見ていない。
そしてディアンも「あれが女に見えるのか!?」と
「あんたはうちの
抜群のくびれを見せる腰に手を当てて、ねぇと傍らの夫の肩に手を置いたローゼ。
心なしか、ワレリーの顔が若干引きつっていた。相思相愛だった二人だが、相当ワレリーの方が、愛の天秤が彼女に傾いている。
そのせいか求婚の際にローゼが彼に与えた試練は、伝説になっている。
「話が相当ずれているようなので、行ってもいいですか?」
ノロケだ。それを聞いている場合じゃない。
リディアは礼を言って、ハイディーと部屋を後にした。
*stand up for catch up with you
(あなたを追いかけるために、私は立ち上がる)
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