202.It's a date, ......and more.
ピンクと紫を基調とした内装なのに、椅子やテーブルがシックなアンティーク調だからか、可愛すぎず品のいいサロンにきたという感じのお店だった。壁際の最奥、クッションがたくさんあるソファに案内されたリディアは、メニュウをみて唸っていた。
キーファは急かさないけれど、さすがに迷い過ぎだよね。
「どれで迷ってるんですか?」
「『濃厚ピスタチオのアイスと木苺たっぷりのパルフェ―マカロン添え』か、この『芳醇マダガスカル産バニラビーンズのバームクーヘンアイス―温かいショコラリキュール添え』もいいけど、『キャラメルバターピーカンナッツアイスにたっぷり完熟メロンパルフェ ラングドシャ添え』も食べたいし、わからなくなってきた!」
キーファはどれにするか決めた? とリディアが伺うと彼はなぜかリディアを見つめて嬉しそうに笑う。
「全部頼めばいいんじゃないですか?」
「まさか! 食べきれないし、太っちゃう。ああ、ショコラリキュールはアルコールだから止めておくにしても、メロンかピスタチオアイスか……。でも、ピスタチオは期間限定なのね。この2つがどうしても譲れない」
「両方頼んだらいいんじゃないですか? 食べきれなかったら俺が残りを食べますよ」
「ええ!? でも」
「妹もよくやります。半分ずつね、と言いながらほとんどレナが食べていますけど」
キーファは笑いながら店員の女性を呼び止める。長いシックのロングドレスだけど、スリットが入って脚さばきが綺麗だ。
「悪いわ」
「いいえ、それとも他にも頼みますか?」
リディアが慌てて首を振ると、ちょうど店員さんがやってくる。キーファはそれと同時に自分にはコーヒーを頼み、リディアはロイヤルミルクティーを頼んだ。
――頼んだパフェは絶品だった。リディアは目の前のパフェの生クリームとピスタチオのアイを口に含んで、頬を緩める。
「美味しい。ここ生クリームがすごくおいしいのね。それにピスタチオアイスも濃厚で。ピスタチオアイスがおいしいところって、なかなかないと思うの!」
もとはフルーツ屋さんなのに、クリームがおいしいなんて反則、人気店なのがわかる。熱く語り、また一口とパフェを口に含むリディアが顔を上げると、目を柔らかく細めて嬉しそうに笑うキーファがいた。
「ええと、ごめんなさい。――つい」
「いいえ。こっちも食べますか?」
「ありがとう」
キーファの方に、ピスタチオアイスのパフェを押し出し、彼から別のパフェを受け取る。キャラメルバターピーカンナッツのアイスも絶品だった。
「そのクッキーも食べてください」
「じゃあ半分っこね」
リディアはラングドシャを半分に割ってキーファに差し出す。そのクッキーをキーファはそのまま口にした。リディアの指からぱくりと。
「き、キーファ!?」
「ああ、つい。すみません」
つい? ええとそうだよね。妹にするようなことだよね。
「いえ、あの、謝られることじゃないけど」
キーファは全く悪びれない表情だ。リディアが過剰に意識しすぎのような気がしてくる。耳が熱くなってきてリディアはなんとなくパフェを掻きまわした。
そういえば、この行為、まるで恋人同士みたいだ。
「大丈夫ですよ。うちの生徒はいないですし、リディアの姿もカーテンで隠れているので」
この奥の席は、ボックス席のように半分カーテンが下ろされている。
「ううん。平気よ、見られても!」
キーファと一緒のところを見られたくない、そんな風に思っていないと強調する。
「でも、あなたのほうが困るよね」
もちろんリディアもこんなデート……のような光景を見られていて、噂になったら問題だけど、自分のことはなんとかできる。でもキーファの方まで迷惑をかけられない。
「俺は平気ですよ。むしろそんなことを恐れて、貴重なこの機会を失いたくないですし。でも傷つくのはリディアなので、そうならないように周囲には気を付けているので安心してください」
「ええと」
「それより、溶けますよ」
全然敵わない。リディアは微妙な思いでパフェを掬う。
――でもパフェは美味しい。
「甘い物好きなんですね。とても嬉しそうです」
「うん。――でも一緒に行ってくれる人がいなくて」
やばい、溶けてきた。リディアは必死でアイスを食べる。シリルは甘いものが苦手だし、ディックには二回ほど付き合ってもらったことがあったけど、居心地が悪そうだった。
ディアン先輩にはとてもお願いできない。絶対浮くに違いない。
キーファが嬉しそうにみているから、リディアはもう一つのパフェを受け取りながら、ためらう。
「嬉しそうね」
「色々なあなたの表情が見られるので」
ここ最近キーファの言動が積極的というか、ダイレクトすぎて返事に困る。詰まるリディアに気づいているのだろう、キーファは苦笑した。
「ありがとう、とでも言っておいてください」
「……」
「でも、何と答えようか困っているリディアを見ているのも楽しいので、悩んでくれても俺はどちらでもいいです」
「……キーファって」
「何ですか?」
「優しいけど……」
その続きを口にするのを躊躇うリディアに、キーファは涼しい顔で告げる。
「好きな子を苛めるのも好きですよ」
顔が熱くなってきて、リディアは顔を伏せる。どうしよう、パフェは食べてしまったからどうしていいかわからない。
「困っているあなたの表情が見られるのも、うれしいので」
(なんで、顔が熱くなるの!?)
「真っ赤ですよ」
「……う」
(ちょっと意地悪って思ったの、当たってるかも)
でも、彼は口をつけていない自分の水を渡してくれるから、やっぱり優しい。もう本当に敵わない。リディアはそれを含んで、顔を上げた。
「あのね、ところで――渡したいものがあるの」
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