201.It's a date, ......may be.
赤茶色のサラサラの髪質が肩先で切りそろえられている、ツンと尖った唇はピンク色、クリクリとしたブラウンの瞳はまるでリスのように可愛らしい。
「つけてきたのか……」
「だってお兄ちゃん。今朝は鏡の前でずっと髪いじってるし、やたらとスマホ見て時間気にしているし、何かあるなーって思って」
「だからといって」
彼女はすばやくキーファの高い背のディフェンスをすり抜けて、リディアの前に立ち、じっと見つめてくる。
「レナです。いつも兄がお世話になっています」
「あ、リディア・ハーネストです」
ペコリと頭を下げる様子は、礼儀正しい。リディアも頭を下げるが、教師と告げるべきか迷う。けれど覗き込むように向けられた笑顔に、リディアは息を飲む。
「――お兄ちゃんね。このところずっとやめていたお祖父ちゃんの道場に通いだして剣道とか弓道とかまた始めたりとか、朝に走り始めたりとかね。もうすぐ就活も忙しくなるはずなのに何でかなーって思ってたの」
「ええと。そうなの」
そうなのか。
「あ、レナって呼んで。私もリディって呼んでいいい?」
「え、ええ」
やや勢いに流されてリディアが頷くと、レナがリディアの手を掴んでぶんぶんと跳ねる。
「ね。リディは、アイス好き?」
「好きよ」
「やったあ。ね、リージェントストリートの裏に新しいパフェの専門店ができたの。もとはフルーツショップだったんだけど、アイスも百種類ぐらいあって全部そこの手作りなの。リディ、行かない?」
そうなんだ!
リディアは思わず頷きそうになるのをこらえる。でも生徒の妹と仲良くなっちゃうっていいの?
せめてお店の名前だけでも知りたいけど……。
「リディ、いくつ? あ、二十歳? じゃあ今度クラブ行かない? イケてるコは、タダなんだよ、リディとならOKだと思う」
「――こら、レナ」
キーファが背後から低い声を出すと、レナは舌先をちろりと出した。その仕草がかわいい。
「あ、じゃ。アドレス交換しよ。――お兄ちゃん、大丈夫。クラブはマダ誘わないから」
個人端末を出されてしまうと、リディアも断ることができない。
それにアドレスを交換するのと遊びに行くのとはまた別の話だ。彼女自身が話したいというのであれば断る理由もない。そう自分に言い聞かせて。リディアもアドレスを交換する。
(あとで、パフェのお店の名前訊こう……)
けして、パフェのお店を知りたいから、が理由ではない。
同時に彼女がこそっと耳打ちしてくる。
「――お兄ちゃん情報、流すね」
リディアが反応に困っていると、彼女はぱっと離れる。
「じゃあね。もう邪魔しないから。あ、そうそう、そのパフェのお店“アニスのお茶会”っていうのだけど、今の時間ならまだ空いてるよ。午後になれば行列できちゃうから、お兄ちゃんと行ってきてもいいよ。お兄ちゃん、場所知ってるよね」
ねっ、と振り向く顔に、キーファも怒っていいのか、迷う顔をしている。
「――じゃあ、お兄ちゃんをよろしくおねがいします」
ぺこり、と丁寧に頭を下げられてリディアも頭を下げてしまう。
ええと。
「リディ。今度うちにも来てね。弟も会いたがっていたから!!」
そして通りまで駆けて行ったあと、振り向いて大声で叫ぶセリフ。
振り返す手を上げたまま固まり、リディアは横に並ぶキーファを見上げた。
「すみません……」
「ううん、可愛らしい妹さんね」
ど、どうして色々知られているの?
「――パフェのお店、行きますか?」
「え!」
「確かに、今なら
気まずげにさっきまで赤らめていた顔はどこにいったのだろう。今は平然と誘うキーファにリディアは答えに迷う。
だって……。
「だ、大丈夫……」
何が大丈夫、なのだ。先ほどと同じように自分にツッこむリディアだが、キーファが続きを待つようにずっと見下ろしている。
そしてリディアは赤くなった顔をごまかすように下を向いた。
「……行きたい、です」
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