112.天使のお告げ


 ケイは、イライラと砂を蹴るようにして進んでいた足を止めて、砂山に登りきると、今度は足を引きずりながら降りる。


 腹立ち紛れに砂を蹴りながら歩くのは禁止されていた。

 疲れるだけで意味がないとリディアからは言われたが、じゃあここに来ている意味はなんだよ。

 

 ケイの目的は、目立つため。


 活躍して、皆の注目を浴びるため。なのに、その機会を与えられないのは不平等だ。


 自分が目立つようにあの女は、計画を与えなかった。


 活躍できるように、魔獣を準備しなかった。


 気に入っている生徒だけが有利なように働きかけた。


 平等な教育じゃない、こんなの納得いかない。


 訴えないと――意味がない!!


「――見てろよ」


 ボディスーツの下から取り出したのは、個人端末だ。

 実習中はずっと圏外だったけど、この場所は聞いた通り、電波が受信できる。

 

 ケイにとっては、端末を少しでも手放すなんてありえない。自分の近況を常にファンのみんなが待っているのだ。


 巨木を背後に、ケイはポーズを決めて、カメラを起動する。


 ――だが、やめる。


 キーファの言葉が気になっていた。


 傷んでいる肌はキメが荒く、肌の荒れが目立つ。

 砂まみれの髪に苛立って、思わず顔を顰めた。


 こんなのは自分じゃない。


(完璧な自分しか、みせられない)


 かと言って、ネタになる魔獣も撮り忘れた。


(そーいえば)


 ケイは自分の頭上にある、醜い巨木に目を向けた。


「呪われた木、だってさ」


 いくつかネタとして写真を撮り、『呪われた木だけど、全然何もないよ』と呟いてみる。


 すぐに『いいね』が千ほど集まるが、納得いかない。


 皆が注目する昼時や、夕方や夜のベストな時間なら一万は賛辞が届くのに。


 面白くない気分で、番号を呼び出して、ケイは歪んだ笑みを浮かべた。


(……みてろよ!!) 



 勿論思い知らせてやるのは、あの女だ。


 番号を呼び出し、コールする。

 しばらく待つが呼び出し音が鳴るだけで、全然相手は応じやしない。


 何度も何度も、何度も何度も、かけてやる。出るまではしつこくかけてやる。

 そうして粘ること五分、何度も何度も何度もかけてようやく繋がったが、出た先の相手は不機嫌そうな女の声。


 ケイも苛立ちをぶつけそうになるが、ここは冷静にだ。


 ここでするべき演技はわかっている。いつもどおり天使の自分を演じなくてはいけない。

 声に涙が混じる、自分の境遇が可哀想過ぎて泣けてくる。


 できる限り哀れみのこもった悲愴な声で訴える。



「先生、先生、エルガー教授! 助けてくださいっ、もう大変なんですぅ!」





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