34.嵐の後の休息
僅かな明かりの外灯の下に、佇む人影。
背の高い、こどもじゃない、男の人の姿だ。
リディアを見て、ふっと笑う顔。
「なんか、吹っ切れたつー顔」
「え」
校門前で待たせていたウィルの言葉に焦る。
待たせたことを責められるかも思ったが、第一声がこれか。鋭いかもしれない、この子。
そう思い、口を引き結ぶ。
(子、じゃない。男の人なんだよね……)
まだ学生らしい甘えとか、ずるさとかもあるけれど。
男の人らしい、逞しさも見せる。
(だからなんだと言うの?)
リディアは頭をふって、とりとめのない考えをやめる。
――魔法師として失格になるかもしれない。
それは、報告書を提出してから考えよう、ディアンとの電話でそんなふうに割り切ることができた。
失敗を反省するのは、頭がまともに働くようになってからだ。
「男かよ、人待たせて」
「ごめん。ええと、魔法師の先輩に助言を」
確かに、二十分も電話をしてしまった。その間着替えてきたのか、彼はジャージだった。バスケサークルのものらしい。
「彼氏?」
「まさか!」
即答して気がついた。ニヤッと笑われて、彼氏だと言っておけばよかったと後悔する。
「ええと、彼氏ではないけれど、彼がいないと言ってるわけではなく……」
「いねーだろ。毎晩残業して急ぐ様子もなく、土日もふらふら大学来てるし」
何こいつ。
観察力鋭い、今どきの学生ってそうなの?
「見てたの?」
「サークルで残ってんの。一番仕事してんじゃん。教授なんて全然仕事してねーし」
「そうねーそうねー。屋台でラーメン食べてこうか、奢るから」
見ててくれてありがとう、でも生徒から言われても複雑。上層部に気づいて欲しい。
そう言って、リディアは考えるように口を閉ざす。
親密にならないほうがいい、隙を見せたらいけないのではないか。
「――それなら密室でもないしね」
つけくわえてみる。
「女から奢られるってなー」
「こないだ、アイス奢れって生徒の皆さんに大合唱されましたが?」
「アレは先生として奢ってって意味」
「よくわからない」
「個人的には、奢られたくないっていう男のプライド」
「全く違いがわからない」
ウィルはリディアの会話のぎこちなさを流してくれているかのよう。
リディアは、先を歩くウィルを追いかける。
体力が違いすぎる、リディアは疲れていてふらふらだ。
「――ねえ、病院は?」
「行かねー。怪我もないし、何を見せんだよ」
そしてちらりと振り返る。
「仕方ねえな、ラーメン行くぞ」
「偉そうなのは、あなたの方!」
彼が何と言おうと、報告をしなきゃいけない。
けれど、あと少し。
あと少しだけ、最後まで頑張ろう。
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