4.過去の終結
”――状況を教えてくれ”
炎と水が拮抗し、水蒸気が立ち込める。
魔法師により風が呼び起こされて、視界が開けていく。
ディアンからの通話に答えながら、リディアは魔法の盾を張り直す。
”首謀者は、逃走。隠し扉が地下にあった模様”
”こちらは、三十体の動く鎧と戦闘中。――お前の読みがあたったな”
ディアンの報告には、喜びは湧かなかった。
やはり後方に戦力を控えてあったのだ。
敵は、ここをずっと根城にしていた。古代魔法も戦力にするために、発掘していたに違いない。
国教正統派は、それほど強い魔法師を有していないが、やけに魔法に研究熱心なのが信者に多い。彼らが古代魔法を取り入れると、いつも手を焼く。
リディアは、自分の頭上に氷の盾を張り巡らし、屈んで魔獣の火炎を防ぐ。
人間の魔法師の魔法とは、比べ物にならないほどの威力だ。
「しっぽが邪魔だ!」
ボウマンが忌々しげに叫ぶ。確かに、長く振り回される尾に、皆が動きを制限されている。竜系は、吐き出すブレスと尾が厄介だ。
”こちらは、敵が呼び出した
リディアはディアンに告げる。
召喚されたのは竜ではない、火蜥蜴だ。格が違うが、火蜥蜴も十分に厄介だ。
”三分で行く。持ちこたえろ”
そう言って、ディアンの通話が切れる。
三十体もの動く鎧を三分で片付けるとか、何言っちゃってんの。
(相変わらず、破天荒過ぎる、ディアン先輩……)
リディアは、炎がやんだと同時に立ち上がる。
「ディック、ボウマン師。全員合図とともに接近して氷の攻撃を。尾は止めます!」
リディアは駆け出す。
火蜥蜴が、雄叫びを上げる。それだけで人はすくみ、動けなくなるだろう。
(とはいえ、所詮蜥蜴。竜とは比べ物に――ならない!)
直進し、ギリギリ背後で踏み降ろされる足の風圧を感じ、そのまま腹の下をすべり抜けて後方へ。
こいつは竜と比べても、牙もない、爪もない、凶暴さも足りない。
まだ背を向けている蜥蜴の後で風の刃を作り、天井にぶつける。
尾がこちらに飛んでくる。放物線を描いて飛んでくる尾と落石が――リディアの下で交わる。
尾の軌道線上から外れるように横に飛ぶ。
轟音とともに、天井から岩石が降り注ぎ蜥蜴の尾を容赦なく押し潰す。
けれど、尾にあたって跳ねた石塊のひとつが、リディアの真上に飛んでくる。
「――リディア!」
目の前の壁がいきなりブチ開いた。
黒い装束の男たちが顔を覗かせる。
叫んだのは恐ろしいほどの魔力を纏わせる黒髪の男。
頭上の石塊が空中で停止する。
リディアがその場から転がりながら離れると、遅れて天井からの落石が小刻みに震えながら小さくなり、やがてギュッと潰されたかのように空間から消えた。
手をついて立ち上がり彼に礼を言う。
「――ありがとうございます」
顎を尊大に上げるだけのディアン。
怒りを宿した眼差しに「バカ」と怒鳴られるかと思ったが、彼は
リディアの指揮官としての立場を思ってのことだろう。
口が悪いくせに、そういうとこは、配慮してくれるのだ。
というか、巨石を消滅させるとか意味が不明だ。
おそらく分子レベルまでに分解したのか、違う次元に飛ばしたのか。
いつも彼の桁違いの能力を思い知らされる。
蜥蜴が口を大きく空けて、にくい人間たちに向かって咆哮をあげる。
取れた尾を残したまま、大きな音を立てて直進する。
牙もない、鉤爪もない、尾が取れた蜥蜴は、炎の攻撃の後は何もできない。
全員で氷を放つと、あっけなく
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