第27話「終わりに」

 その後の話なんて、蛇足で無駄なのかもしれない。だけど、俺にはそれを語っておく義務、それを果たす使命があると思う。


 だから記そうと思う。あの後、世界は太陽を見ることになった。《ヒミナシ》も《ヒシナシ》もこの世からいなくなった。みんなみんな、太陽を見ることができるようになったから。


 雲一つない晴れた空、空が笑っているように思えた。


 月だって、雲だって、太陽がいて輝いている。空を覆っていた分厚い雲は、たまにしか現れない。やっぱり毎日見ないとさみしい、なんてことは全くない。


 でも、やっぱり雨が降るとあの時の生活を思い出すことがある。だけどそれはみんな同じことだ――つらい過去は背負って、それでも残されたものは生きてゆく。命を抱えて哀しみを抱えて生き続ける。


 とめどなくザアザアと降る雨で、失ったものも多い。涙を流すように、皆の悲しみが全てを洗い流し、雨がなにもかも暗くする。暗くなったものは腐りやがて動かなくなる。しかし、そうなる前に人は太陽に触れなければならなかった。


 実際、望日が言っていた危機に直面することはなくなったらしいが、それはだれにも分からない。少なくとも今のところ、燦々と輝く太陽を見ていられるだけで幸せな生活を謳歌できていると言える。


 しかも、可愛い娘と可愛い妻、そして可愛い妹がいるのだ。


 これ以上の幸福などあるだろうか、いやない。


「お父さん! これ見てよ!」


「ちょっと待ってくれ!」


 そう言って俺は娘である望日の所に行く。


「あなた! ここ手伝って!」


「おう、今行く」


 そう言って俺は妻である緋乃と一緒に家庭を築く。


「お兄ちゃん! 知ってた?」


「なんだなんだ!」


 そう言って俺は妹である朱菜と談笑する。





「人生つまんねーな、なんて言わない」


 嗟嘆する跡川朱冴あとかわあかざはもうここにはいない。己の生まれた時代、己の生きる世界、己が存在するこの世に嫌気がさすようなことはない。


 止まない雨はない。


 それは本当だった。


 生きている限り、きっと雨は止む。


 嫌なことだって、辛い事だって、悲しいことだって全部ぜんぶ止む。


 太陽を求める心があれば、誰にでも太陽は訪れる。


 太陽はきっと心を照らし、前に進む勇気をくれることだろう。



 だから俺は今日も、空を見上げて、太陽に笑う。


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ミライミイラ~10歳になる俺の娘はS級水魔法使いだった件について~ 阿礼 泣素 @super_angel

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