第24話 『世界最強』は『無敵』じゃない

「そういった登場にあこがれていたんだよ。どうだい? もう一回やらないか?」


「……やらない。いいから、さっさとコイツの力を回収してくれ。話は聞いていたんだろ?」


「そうかい……残念だ」


 本当に残念そうにおじさんは肩を落とすと、気を失っている飛留真のところへ向かう。


「しかし、もう二人目とは……どうやら君には才能があるようだね」


「才能って、なんのだよ」


「もちろん、『御術持ち』を狩る才能さ。どうだい? 君も『御術狩り』にならないか?」


 キラキラと、いい笑顔でおじさんは言う。


「……ならない。俺は『モテる男』だからな。っていうか、『御術狩り』ってなんだよ。変な方向に話を持って行くな。アンタがその『御術』を人にバラまいている張本人だろうが」


「……む。確かに」


と、おじさんは一人でうなずく。


「……では、実はおじさんと同じような力を上げられる人が別にもいて、その人が与えた『御術』を回収するために少年が頑張るという……」


「頑張らない。そんな話じゃなかっただろうが。いいから真面目に回収しろ。その人に力を与えたのはおじさんなんだろ?」


はいはい、と残念そうに言いながらおじさんは飛留真の頭に手を当てる。


「まぁ、冗談はここまでにするとして。イヤ、驚いたことは確かなのさ。だって、彼の願いは『世界最強』になることだったんだからね。それがまさか、『モテたい』って願った少年にこうもあっさり負けたんだから。これは、番狂わせも良いところだろ?」


「……そうか?」


力雄がくびをかしげる。


「戦った感想としては、順当だと思うけどな。だって、この人、別のその『術』とかいう『力』を持った奴と戦ったことがなかっただろ? 完全に、俺がどんな力を持っているか把握出来ていなかった。それじゃあ、どんな願いからの力でも、勝負にならない。違うか?」


「それは、間違いないね。確かに、そのとおりだ」


おじさんの手が光る。


「しかし、感想ね。感想は、それだけかな? 彼と戦って」


「……何が言いたいんだ?」


「いや、仮にも昔の君に似た願いを持った相手だったんだ。順当だとか、勝負にならないとか、それだけなのかなってさ」


 おじさんの問いに、力雄は表情を変えなかった。

 それは、戦いながらも気づいていたし、思っていたことだったからだ。


「感想としては、妥当だろ?」


「……ん?」


「自分の……昔の、捨てた黒歴史みたいな願いが相手なんて、勝つのは順当だ。勝負にならないのは当たり前だ。『世界最強』は、『無敵』じゃねーんだよ」


「……『世界最強』は『無敵』じゃない。ふぅん、中々含蓄のある言葉だね。面白い」


噛みしめるように、味わうように、おじさんは頷く。


「それが、君の願いの、『モテる』事に対する原点、だったりするのかな?」


おじさんの指摘に、力雄はバツが悪そうに顔をゆがめる。


「いいから、無駄話していないで、さっさと回収しろ」


「……はいはい。そろそろ、だよ」


そのタイミングで、光が倒れている飛留真から抜け出ていく。


「……これが、さっきのあいつか?」


光が収まり、倒れている飛留真を見て、力雄は目を見開いた。


そこにいたのは、やせ細った、小柄の男性がいたからだ。


先ほどまでの筋骨隆々とした大柄の男性の面影は、一切無い。


「ああ。これが『世界最強』を願った男の姿さ。自分とは真逆の存在になりたいと願う。願いとしては、もっともありふれていて、ノーマルな願い、さ」


おじさんは立ち上がる。


「……まぁ、物質を止めたり超能力みたいな事が出来るんだから、筋肉をつけたりは可能なんだろうけど……これは、さすがに。背も伸びていただろ、これ」


筋肉だけでなく、身長もさきほどの大男の時と比べて1メートルは違う。


別人、と言っていいほどに、先ほどまで『世界最強』を自称し、暴れていた男性と、今地面に倒れている男性では、体のつくりが全て違うのだ。


「彼が求めたのは『世界最強』の肉体だからね。もっとも、求めたのは肉体だけで、内面を彼は重視しなかった。精神もそうだけど、内蔵とかもね」


おじさんは肩をすくめる。


「君はそこを上手くついたわけだ。ナイフで脳を揺らし、泥水で呼吸を止めて、どこまでの事に耐えられるのかを確認した。『世界最強の肉体』を願ったとして、その願いは『無敵』ではないと知っていた君は、『世界最強の肉体』弱点があると分かっていたんだろ? だから、君は、彼の体を鞭のようにしならせながら地面に叩きつけることで、苛烈な脳しんとうを起こし、とどめを刺した。外側の筋肉と骨が強くなっていたからよかったけど、普通の人なら軽く死んでいただろうね」


あははとおじさんは笑う。


「君が、中学生の時、色々な人物に、手当たり次第喧嘩を売っていた問題児だってことは、調べていたから知っていたけど、本当に、場慣れしているね。マンガバトルはマンガバトルでも君が経験してきたことは、何というかヤンキーマンガみたいな、そんなバトルをしてきていたワケだ」


「ヤンキーって、俺はアイツらほどじゃねーよ」


溜まったモノを出すように、力雄は、息を吐く。


「アイツらほど……マトモなヤツじゃなかった」


そう言った力雄の目には、どこか、破裂しそうなほどの後悔の念が、垣間見えていた。


「……そうかい。君の過去に何があったのか。気にはなるけど……今日はここまでかな。そろそろ人が来そうだ」


おじさんは、道場がある方角に目を向ける。


「彼に関しても、警察に言えば良い。治安部隊を壊滅させた犯人だ。意気揚々と、この件の処理をするだろうさ」


おじさんは、愉快そうに笑う。


「……なぁ。警察も、この『御術』とかのことを知っているんだよな? てことは、国、とかも。アンタは、本当に何が目的なんだ? 妙な力をバラまいたりして……」


力雄の質問に、おじさんは笑う。


「おじさんの目的は、前に答えただろ? おじさんは、人の『願い』を叶えたいだけだ。『世界を救う』とか、『全人類を幸せにする』とか、そんな高尚で大層で、大仰な願いじゃない。『強くなりたい』とか、『モテたい』なんて、小さい願いを叶えていきたい。それだけなのさ」


「じゃあ、なんで警察が……国が協力していて……」


「そこが違うんだよ、少年。アイツらは協力しているわけじゃない。関係したがっているだけだ。だから、協力的なんだよ」


おじさんは、手を広げ、そして親指をおる。

四本の指が、立っていた。


「さて、これでおじさんが力を与えた人は、君を除いて残り4人。この調子で少年は『御術狩り』を続けていくのかな?」


力雄の質問への答えは、あれで終わりだったのだろう。

先ほどの戯れ言をおじさんはまた言い始めた。


追求しても、あれ以上の答えが出ないと力雄もわかり、おじさんの戯れ言に付き合うことにする。


「あのな。『狩り』なんてするわけないだろ? 今回はコイツが俺の知り合いに手を出そうとしていたからやっただけだ。そうじゃないなら、こっちからは何もしねーよ。俺はただ、『モテたい』だけだからな」


力雄の答えに、しかしおじさんはこう返す。


「それはいい。おじさんはただの、『願いを叶えるための力をあげるおじさん』だからね。若者が願いを叶えるために動くことは、おじさんとしてもうれしいよ。でもね、少年。君の身近なところにいる『御術』を持っている者には、どうするのかな?」


おじさんの問いに、力雄は驚くこともなく、答えた。


「俺はただ、『モテる』だけだ」

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※旧タイトル 『モテる力』の使い方 おしゃかしゃまま @osyakasyamama

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