第23話 『モテる力』の技

力雄は上を見る。


数十メートルほどの高さの場所に、飛留真の姿があった。


飛留真は膝を落としたのではない。


かがんでいたのだ。

かがみ、バネをためて、飛び上がったのだ。


「はぁ……はぁ……」


ぐんぐんと上昇していた勢いが収まり、次に落ち始める。


そんな状況で、飛留真は呼吸を整えながら下にいる力雄をにらんでいた。


「この、『世界最強』の僕……我になんてことを……泥水などに……」


飛留真はビキビキと額に血管を浮かばせる。


(あの小僧はゆるせん! しかし、小僧の力が何かわからん。水の操作か?)


地面にいる力雄は、その手に泥水で出来ていると思われる球体を作っていた。

正確には、持っているのだが。


「……小僧の『力』が何かはわからん! 分からんが……使われる前に、潰せばよかろう!」


変なことをされる前に、速攻でカタをつける。

『世界最強』の肉体ならばそれは可能だと飛留真は判断した。


飛留真は、両腕を頭の方にピンと伸ばし、力雄の方に体を向ける。


「……はぁあ!」


そして、勢いよく腕を閉じた。


そう、飛留真は羽ばたいたのである。


腕を閉じたことで生じた風が、推進力となり、飛留真をまるで砲弾に変える。


「死ね、小僧! 必殺! 『飛竜拳』!!」


そのまま、飛留真は拳を力雄に向けて繰り出した。

それは、まさしく空を飛ぶヒーローの必殺技のように見えただろう。


違いがあるとすれば、その技の結末だ。


「……なっ!?」


飛留真の拳は、ヒーローの必殺技は、『世界最強』の渾身の一撃は、何事もなく力雄に止められていた。


「ば、ばかな……そんな細腕一本で、我の拳を受け止めるなど……」


正確には、持たれていた。

力雄の手によって、『モテる』力によって。


「……『モテる力の使い方 守り手(サキモリ)』とでも名付けるか」


「う……おぉおおおおおお!」


簡単に、拳を受け止めたようにしか見えない力雄に、飛留真は猛攻をしかけた。


がむしゃらな乱打。


そのどれもが、力雄に届かない。


全て止められる。全て持たれてしまう。


「……もうやめとけ。アンタは確かに早いし強い。『世界最強』の肉体を持っているとは思う。けど……アンタじゃ無理だ。いくら体が強くても、頭が弱い。中身が弱い。それに……ちょっと馬鹿すぎる」


「うるさいだまれ!」


さらに挑発され、もう飛留真の顔は真っ赤になっていた。


ひたすらに、力雄を殴っていく。

ひたすらに、力雄に止められていく。


「……あきらめるつもりは、なし。じゃあしょうがない……死ぬなよ?」


「ぬぅう!?」


がっしりと、力雄は飛留真の拳を握る。持つ。


「力比べか? 我は『世界最強』ぞ。いくら受け止める事が出来るといっても、力では……」


ぐっと力雄の手から飛留真は拳をはなそうとするが、いくら力を込めても、飛留真の拳は力雄に握られたままだ。


「な、なぜだ!? なぜ抜けぬ!? いや、抜けなくても、これだけの力で引けば、小僧の体ごと浮くはずだ!」


まるで、力雄の体が地面に埋まっているような、力雄の体そのものが、地球と一体化しているような強靱さがある。


「な、なんだ!? なんなんだ!? 小僧! 貴様の力はなんだというのだ!? なぜ、『世界最強』の我に、力で……」


「何かって、俺はずっと言っているだろ? 俺の力は『モテる』事。『モテる力』だ」


「モテる? だからふざけるなと……うぉ!?」


飛留真の体が、宙浮いた。

いや、力雄によって持たれたのだ。


片腕一本で、200キロはあろうかという飛留真の巨躯が持ち上げられていく。


「そろそろ暗いし……終わりだ」


「……お、おまえ、まさか……やめっ……!」


「『モテる力の使い方 大蛇(オロチ)』」


力雄は、そのまま飛留真の体クルリと回転させて、飛留真の足を持つ。


そして、彼を地面に叩きつけた。


鞭のようにしなりながら地面に打ち付けられた飛留真の体は、まさしく蛇のような軌道を描き、地面にめりこむ。


「……一発で気絶か。やっぱり中身や頭は弱いままだったな。ちょっと揺らされただけでブラックアウト『世界最強』は外側だけ。筋肉だけ、か」


一回地面に叩きつけられただけで、飛留真は完全に意識を失っていた。


力雄は飛留真から手を離す。


「……さてと。おじさん、いるんだろ?」


「おや、それはいいフリだ」


力雄が声をかけると、おじさんが木の後ろからひょっこりと現れる。


「まるでマンガみたいじゃないか。『気がついていたのか』と言って登場すれば、もう完璧」


おじさんは、実にうれしそうだった。

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