第46話 現在のステータス
寝て、目が覚めて。
一晩を明かすと、ステータスの上限値を超過した分の力は俺の体から離れていった。
詳しい原理は知らないが、どうやらホムンクルスの中に戻っていったらしい。
しかし、一度燃やした物がもとには戻らないのと同じで、純粋な力へと変質した命は、もう取り戻せないようだ。
ホムンクルスの核へと収まったそれらは、俺がレベルを上げて上限値が増えたとき、その分だけ流れ込んで来るよう待機しているのだとか。
つまり、俺はレベル上げを続ければ、いずれあの強さを手に出来るということだ。
「今日はどうするの?」
装備の点検を終えたらしいホムンクルスが、ベッドに腰掛けてから質問してきた。
「とりあえずはダンジョンに潜る。当面の目標は、レベル上げと階層の突破だ」
「何で?」
「効率がいいからだよ」
この言葉に嘘はない。
強さにおいて"先"が確約された今だからこそ、レベル上げに適した環境に身を置く必要があるだろう。
しかし、理由は一つではない。
もう一つの理由は、セリアのことだ。
最後に第二王子から連絡が来てから情報の更新がないため、現状どうなっているのかは分からない。
だが、エルフの里での完治は見込めないということだったから、セリアの呪いを解くためには、どの道黄金の果実が必要になるだろうと思う。
ならばこそ、それを取りに行く覚悟が決まったとき、数多ある選択肢を自由に選べるだけの力が欲しい。
今やるべきことが分からないのなら、今後選択を迫られた時、自由な行動を取れるだけの力をつける努力をすればいいのだ。
だから、ダンジョン攻略は必須。
今度こそ自分の力で抗うために、俺は強くなりたい。
「分かった。なら、私も行く」
「いや、お前はここで待ってろ。急に倒れたりしないか不安なんだよ」
「でもっ」
「お願いだから言うことを聞いてくれ」
ホムンクルスの言葉を遮って言う。すると、僅かに唇を尖らせたような表情をとったホムンクルスが、俺を睨んできた。
「私は戦える。削られた寿命と健康状態は関係しない」
「頼むから俺の不安を拭わさせてくれ。今は色々と落ち着きたいんだ」
「······分かった」
渋々頷いたホムンクルスは、俺から目をそらすとベッドに顔を埋めた。
ゆっくりと足をパタパタさせているところあたり、感情表現が豊かになったな、と思う。
「······むぅ、」
そして、あからさまに不快感を表わすあたり、かなり自由なやつになったな、とも
思ってしまう。
まぁ、
「むぅ······っ?!げほっ、げほっ!」
変に息を吸い込んで咳き込む姿は、相変わらずの間抜けだが。
「んじゃ行ってくる。何もしないで待ってろよ?」
「束縛は良くない」
「じゃー、適当に暇を潰しながら待ってろ」
満足そうに頷いたホムンクルスを視界から外し、俺は宿を出た。
ギルドに向かい、俺の担当であるマリエラさんがいる受付へ向かっていく。
先に並んでいた数人の冒険者たちが依頼の受注などを終わらせると、ようやく俺の順番が回ってきた。
「シオンさん、本日はどうなされましたか?」
ダンジョンの攻略や情報確認。
やりたいことと聞かれれば、沢山ある。
だが、今一番求めているのは······
「ステータスの更新をお願いします」
「ステータスの更新で宜しいでしょうか?」
「はい」
短くうなずくと、マリエラさんはステータスを更新するための準備を始めた。
そして数十秒が経過する。
「準備が整いました。こちらに手をかざしてください」
言われたとおりに手順を踏むと、ステータス用紙が発光していく。
やがて、俺のステータスが表示された。
―――――――――――――――
名前【シオン】
クラス【なし】
LEVEL【22】
HP【163/163】
MP【38/38】
攻【123/123】
防【102/102】
速【145/145】
賢【84/84】
魔力攻撃【5/5】
魔力防御【13/13】
ユニークスキル【なし】
スキル【危機察知:B】
―――――――――――――――――
「こ、これは?!」
可視化されたステータスを見て、マリエラさんが驚愕の言葉を漏らす。
確かに驚愕ものだ。
ステータスの貧弱さは相変わらずだし、魔術に関係する数値は壊滅的である。
しかし、つい最近までは半分まで迫っているかといった程度だった現在値が、どれも上限値に追いついているのだ。
こんなこと、そうそうないのだろう。
「シオンさん。一体何をしたんですか?!」
「何······」
なんて言ったものか。
奴隷と言っていたあの女の子が実はホムンクルスで、命を代償に力を得ましたなんて、口が裂けても言えない。
「色々とあるんです。頑張ろうと思うことが」
マリエラさんが俺に対して抱く疑問は晴れないだろう。
だがこう言っておけば、俺の事情を知っているギルドマスターは納得するはずだ。
「そう···ですかっ」
自分が担当する冒険者の成長は嬉しいのか、マリエラさんは小さくため息をついた。
いや、それは喜びから来るものではなかった。
「人間、どんなに強いスキルを得ていても、死ぬときは一瞬なんです。無茶はしないでください」
「それは···」
「他の冒険者さんにも、同じように言ってあります。シオンさんだけ特別扱いはできません」
別に命に関わるような努力なんかしていないのだが······しょうがないか。
確かに、命あっての冒険者だ。
受付嬢として何年も働いているマリエラさんは、そうして死んだ人をたくさん見てきたのだろう。
「分かりました」
ステータスの確認をしたあとは、ダンジョンの一層を攻略すると伝えた。
アイクたちとの攻略では三層まで突破する事ができたが、また一人になってしまったのだ。
勝手が分からずに死んでしまいましたでは、目も当てられない。
そしてギルドを出ようとしたところで、まさかのギルドマスターに声を掛けられた。
「おい、シオン。新しい情報だ。ちょっと来い」
もう一度だけ頑張るから、全てを救う力をください 双刃直刀 @1090910
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