デスゲームダイエットで極める美への道

ちびまるフォイ

死にたくなるほど痩せられる。

「はぁ~~痩せたいわぁ、ハリウッドセレブくらい痩せたいわぁ」


年がら年中、「お腹減った」くらいの頻度で言っている言葉。

それでも痩せないのは食べすぎ以外で何が原因なのか。


答えを探すように街のスタバでフラペチーノをグランデしていると、

窓の外に長い荷台の車が目に留まった。コンテナには大きな広告があった。



【すぐに痩せたいなら、デスゲームダイエット♪】



「これだ!!」


広告ある電話番号にすぐダイヤルした。

その後、睡眠薬を飲まされてどこかわからない場所へと輸送された。


目を覚ますと、老若男女さまざまな人たちがいる密室に閉じ込められていた。

部屋にはスピーカーとなぜかトランプがある。


『希望者のみなさんおはようございます。

 これからみなさんにはゲームをしてもらいます』


「これが……デスゲームダイエット……!」


『人間の限界ギリギリの過酷な環境であるこのゲーム。

 そこに長時間いることでストレスで一気に痩せてリバウンドもない。

 ここから出るときには、必ず痩せられるでしょう』



『ただし』



『この中で1人はゲームに負けます。負けた人はしぼうします』


急に冷静なトーンに切り替わったことで、全員が言葉を失う。


「それで、俺たちはどんなゲームをやらされるんだよ!」

「痛いのはいやよ!? そんなの聞いてないもの!」

「ボクは楽して痩せられるって聞いたから来たんだぞ!」


『ゲームは簡単です。部屋の中央にあるトランプでババ抜きをするだけです』


「えっ」


『では、ゲームをはじめてください。

 最後にババを持っていた人が敗者です』


部屋の壁にあるタイマーが動き出す。制限時間もあるらしい。


「とにかくはじめましょう!」


トランプを手に取り全員にいきわたるよう配った。

それぞれが手札を確認するが、人によっては多かったり、少なかったり。


「なぁ、俺だけ手札が多いのは不利じゃねぇか。

 お前なんか配るときに細工してねぇだろうな!」


「してないわよ! 勝手なこと言わないで!」


「だったら、何かカードをくれよ。

 俺の持っているカードのうち、お前の持っているカードをくれ。

 そうすればお互いに始まりの手札が少なくなって有利だろ?」


これにはほかの人も声を荒げた。


「ず、ずず、ずるいぞ! そんなの卑怯だ!」


「ブタは黙ってろよ。俺はビジネスの話をしてるんだ。

 俺は実は政治家の息子で、ゲーム終了後には俺の手札を減らしてくれた分だけ報酬を約束する。

 この場で小切手書いてもいいぜ?」


大人っぽい女がこれに応じた。


「いいわ、アタシのカードをあげる」


「そうこなくっちゃ。わざわざ真剣にゲームをやって、敗者になるこたぁねぇ」


「あなたはどのカードが欲しいの?

 あなたが持っているカードを私が持っていたら譲るわ」


「ハートの3」


「ほかは?」


「スペードの6」


「ふふっ……」


女が笑ったのを見て、政治家の男は自分のやらかしに気が付いた。


「あっ! しまっ……」


「あははは! あんた、本当にどうしようもないドラ息子ね。

 自分の手札を言っちゃうなんて! そのカードだけは引かせないわ!」


「てめぇ! だましやがったな!」


「これはゲーム。あたしだって負けたくないもの」


「もうゲーム外での駆け引きはまっぴらだお! 早くはじめるお!」


人生でもっとも緊張するババ抜きがはじまった。

部屋の中ではみんな余計なことを言うまいと静かにカードを引きあう。


やがて、手札が1枚になった人が叫んだ。


「しゃああ!! あと1枚でアガリだ!! お前らざまあみろ!

 政治家の息子っていうのはよ、お前ら凡人と持ってるものがちげぇんだよ!!」


まさかの政治家の息子が有利になった。

このまま上がられてしまえば、自分が敗者になる確率が上がる。


「おらデブ。さっさと手札をだせ」


「……」


「ちっ、はずれちまった」


「みんな! 今こいつはクラブの13を引いたお!!」


「てめぇ!! なに言ってやがる!」


太った男が引いた手札を叫んだことで、それだけは男に回らないよう無言の結託が生まれた。

持っている人はわざと引かれにくい場所にカードを移動させて循環を避ける。


誰だって負けたくない。

自分がアガるまではほかのやつはアガってほしくない。


「てめぇら、ずりぃぞ!!」


男の苦情は黙殺されて静かにゲームは進行していった。

やがて、みなの手札が限られるころ、私は違和感に気づいた。


「……ねぇ、さっきからループしてない?」


「ループ?」


「もうずっと同じカードを引いたりしてるのよ。

 新しいカードを引かずに同じカードばかりずっと!

 いくらなんでもこんなのおかしいよ!」


誰も手札が減らないまま延々とババ抜きがループし続ける。

そんなことが続くはずがない。


「ねぇ、誰かカードを隠しているでしょ!?

 じゃなきゃ、いつまでもペアができないなんておかしいもの!!」


「はぁ!? てめぇこそ何言ってんだ!」

「ボクらがカードを隠している証拠があるのかお!?」

「そういうアンタこそ一番怪しいわよ!!」


「……それじゃ、このまま制限時間いっぱいまでやるつもり?

 残り時間ももうそんなに残ってない。

 ババ抜きが終わらなかったら、全員が敗者になることだって考えられる」


全員の視線がタイマーへと注がれた。残り時間もあとわずか。


このゲームでは敗者が1人で残りが勝者になる、勝ち確率が高いはずなのに

タイムアップの場合に全員が敗者として扱われたら元も子もない。


「チッ……わかったよ。カードは全部出す。俺だって負けたくねぇ」


みんながそれぞれ隠していたカードを手札に出した。

私も重ねていたカードをはがして引けるようにした。


「ここからが本当のゲームね」


すでに精神はボロボロになっている。

ここまでカロリーを消費するババ抜きがあっただろうか。


「よし、あがりだお!」

「アタシも上がり!」


残りは私と政治家の息子になった。

私の手札にババはないから地雷を踏まなければ私の勝利。


「な、なぁ。ここから出たらいくらでも金はやるよ。

 だからこのゲームでは負けてくれねぇか?」


「え?」


「お前ら、ダイエットごときにマジになりすぎなんだよ!

 俺は面白半分で来ただけなんだ! なのにこんな目に合うなんて!

 なぁ、ババを引いてくれよ! 後で金を使って痩せさせてやるから!」


「…………こっち?」


私は右側のカードに指を合わせた。


「ああ、そっちだ! そっちがババだ! 引いてくれ!」


「そう」


私は左側のカードを引いた。手札のカードにペアがそろい、私の手札は1枚。

男が引けば私の勝利は確定。。


「な、なんで!? 金がほしくないのか!」


「あなたが敗者になるところが見たかったの」


「い……いやだぁぁぁ!! 負けたくない!!」


男はトランプをほおって部屋の隅に逃げ出した。


「ちょっと! 最後までゲームしなさいよ! 私がアガれないじゃない!」


「嫌だ! 負けるくらいだったら……このままゲームを放棄する!!」


「こいつっ……!!」


タイマーはもう最後のカウントダウンを始めている。

手段を選んでいる時間は残っていない。


「いいから、あんたが、負けろ!!」


私は男の手を強引に握って、カードを引かせた。

そして、地面に散った男のババをもって男の手にねじこんだとき。



ビーーーッ。



『ゲーム終了です。みなさん、お疲れさまでした』


ゲームが終了した。

敗者の顔はディスプレイに明示される。


「な、なんで……!?」


映し出されたのは私だった。


「どうして!? 私は負けてない! 間違ってる!!」


『最初に申し上げたはずです。


 最後にババを持っていた人が敗者だと』


タイマーが切れた瞬間、男に握らせようとババを持っていたのは私だった。


「うそ……」


そして、敗者には制裁が行われた。



 ・

 ・

 ・




ゲーム終了後、私の体重はゲーム始まる前より格段に増えていた。


私の激太りを見て友達は言葉をなくしている。


「ちょっ……あんた、どうしてそんなに太っちゃったの!?」





「ゲームに負けて、脂肪させられた……」

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