無念流<赤焼けの太刀>
無念流とは下野国都賀郡に伝わる剣術流派だ。
『力の剣法』と称されるほど、力強い打ちを特徴としている。
この無念流とは宝暦年間、小泉道元斎忠勝によって創始された。
道元斎は下野国都賀郡にて生を受けた。信州に移り住むと影心一圓流を学んだ彼はやがて兵法家として諸国を修行した後、信州戸隠山を越える折に一つの悟りを得るに至り、その後郷里にて無念流を開いたと伝えられている。
――道元斎について、このような逸話がある。
無念流が多くの門人を得た頃のことだ。この頃には腕の立つ剣客を多く輩出し、流派の名前も緩やかに、それでいて確と広まっていた。
ある日、無念流の名を聞きつけて他流試合を申し込んだ男があったという。
その者は三野国苗木藩に伝わる柊流を名乗り、その名を木ノ下竜眼弥彦と云った。この申し出を道元斎は快く引き受けたが、たちの悪いことに竜眼とは悪辣非道な男であった。
他流試合の直前、竜眼は道元斎に毒を盛ったのである。
毒によって道元斎の視界は真っ赤に染まり、足元はふらつき、前後左右さえ不確かな有様。
道元斎は朦朧とした意識にありながら、しかし無心無双で揮った一刀が竜眼の刀を捌きながら額を割り、竜眼を討ち斃したという。
この後、道元斎は柊流の刺客の手にかかり命を落とすこととなる。
この逸話に基づきて。
小泉道元斎忠勝が一つの境地に至り、木ノ下竜眼弥彦を討った無心無双の一刀を、無念流では秘奥の剣として伝承している。
その名を『赤焼けの太刀』と云う。
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