第二章 8 誰だって勝負して負けたら、くやしい

 勝負ゲームの場は、先ほどボクらがギャンブルをしたあの大ホール――その中心に特設された円形の大舞台。


 たくさんのギャラリーが大勝ちした今夜の姉さん主役夜王バラビアとの大勝負を見届けようと集まっていため、舞台の上から見るギャラリー達の風景は、それぞれが仮装によって、まさに魑魅魍魎ちみもうりょうのそれだった。


「勝負はあんたの得意な『クラウンカード』にしてやるよ」


 バラビアが指を鳴らすと、数人のディーラーがテーブルとカードがあっという間に用意する。


「……わかりました」


 姉さんの答えと同時――ディーラーと入れ違うようにすそから、誰かが舞台に上がってきた。


「……キミは、さっきの――」


 舞台に上がってきたのは、先ほどボクらにこの不夜城のことを教えてくれた、小さなだ。


 どうしたのかと思っていると、その子はおもむろに被っていた着ぐるみを脱ぎ捨てると、そこには短パンの、礼装と思われる整った服を着た蝶ネクタイの少年が立っていた。


 彼を認識したとき、ボクの女神の目が発動する。


「キミ! シュヴァリエだったの!?」


 僕の目にランク☆2――紛れもないシュヴァリエとしての彼が映し出される。


「わからないのも当然だ。お前達マジェスティがシュヴァリエのランクを見る時、そいつをまず、『人』の姿だと認識しなければならない。だから、こうして趣味しゅみの悪い着ぐるみを被って、姿を人から遠ざけてやれば、女神の目はそれがシュヴァリエなのか『認識できなくなる』のだ」


 こんな、ボクとそんなに変わらない子供が、シュヴァリエだなんて! それにこんな方法で女神の目をいつわれるなんて、考えたこともなかった。


「まぁ、こんなことはちょっと『女神の目』に興味を持ち、実験すれば誰にでもわかることだがね」


 ちょっと待ってよ……ここにシュヴァリエが現れたって事は、マジェスティは――


「ワタシはこの勝負を私のシュヴァリエ『ユグド=ユグドラ』を代打ちとして、やらせてもらうよ」


 やっぱりバラビアがマジェスティ!


 そうか! こいつもボクと同じ目を持っているから……じゃあ、はじめからボクらがシュヴァリエ持ちだとバレていて、マークされていたのか!?


「汚いぞ! シュヴァリエを相手に出すなんて!」


「なにもワタシが勝負するなんて一言も言ってないよ。それにさっきはアンタらもシュヴァリエを使ってこんな老婆ろうばおそおうしたのじゃないサ。これでおあいこだよ」


 う……確かにさっきは龍之介達をたよろうとしたけど――でも、それはそもそも……


「わかりました。私もそれで構いません」


 姉さんはボクと違って何一つ動揺せず、その条件を了承する。


「姉さん!? わかってるの!? 相手はシュヴァリエなんだよ!?」


「大丈夫。私には、イカサマしようとしたらすぐにわかるわ」


 姉さんのこの自信……そういえば、さっきはどうやってディーラーの人たちのイカサマを姉さんは見破ったんだろう?


 ボクがルーレットをやったとき、ボクにはディーラーの人がイカサマをしているなんて、まったく気付かなかったのに。


「まったく――つまらない問題もあったものだね」

 相手のシュヴァリエ、ユグドが退屈そうなため息と一緒に吐き捨てた。


 つまらない問題とはいったい……なんのことだろうか。


「わざわざ私が相手をするんだ。せいぜい――何かを学んで帰ってくれたまえよ」



“ドックン・ドックン・ドックン”


 私たちの運命の大勝負が始まった。

 私の相手はユグド=ユグドラという異世界の人間……と、その主人、バラビア。


 そして、ゲームは先ほど私が大勝ちした『クラウンカード』。小さい頃、お父さんやお母さんに教わり、慣れ親しんだゲーム。掛け金は、私たちの持ち金貨と同額。互いの金貨をすべて取り尽くした方が勝ちになるサドンデスマッチ。


 使用されるカードは、未開封品。さらにカットは、ディーラー含め私たち全員で、しかも互いにしっかりと見えるように、行った。


 ゲームは意外にも公平。それならば、たとえ相手がシュヴァリエでも、私にがある。変な仕草、行動は決して聞き逃さない。


 だが、公平なはずのこの勝負は、次第に――はっきりと互いの優劣ゆうれつの差が結果になり始める。


「どういうことじゃ?」


 龍之介さんの疑問と同調するように、会場がざわつく。


「最初こそ調子良かったように見えたが、だんだんとニーナが不利になってきたぜ」


 虎二さんの言うとおり。立ち上がりは運にも恵まれ、調子よく勝ってきた。慎重に、冷静に、確実に勝ちを積み上げていったはずだった。


 それなのに、要所要所の勝負でのみ、うまくかわされ、負かされた。


 そしてリードしていた私は、次第に、相手にまくられ、差が徐々にゆっくりと広がっていく。


「『フルスコア』だ……また私の勝ちだな」


 ダメだ。このままじゃ――どこかで大きく勝負を仕掛けないと……


 十八回戦――ようやくきた絶好の手札! 勝てば一.五倍の『クイーンズ』。

 もう手にした金貨の半分以上が持っていかれた。ここで大きく勝って巻き返さないと!


「レイズします」


 私はまず小さくレイズする。相手がすぐに降りてしまっては負け分を取り戻せない。


 それに、私にはシュヴァリエにも手に入れられない情報がある。


 ――慎重に――冷静に――集中して――


「なら、私もレイズだ」


 よし! 相手もレイズしてきた。


 相手のレイズしてきた金額なら、この勝負に勝っても、この次の私のレイズで相手が降りても、そのままコールしても負けた分を取り返せる。


 だけど、ここはレイズしない。レイズしたいけど――これに勝ったからと言って、勝負が決するわけじゃない。この長期戦のゲームで、もう一度流れを掴むためにも、できれば相手を降ろすのではなく、この手札で勝負まで持ってきたい。


「コールしま――」

「なら、私はさらにレイズだ」


 私のコールに被せるように、相手は予想外のレイズを仕掛けてくる。

 会場がその声に歓声を上げる。今夜、この勝負でのだ。


 ここでレイズしてくるなんて――これじゃあ、もう私は降りられない。ここで降りれば、残り金貨はさらに半分になってしまう。


 慎重に……こんな大勝負、さすがの相手も多少は乱れるはず……。



“ドックン・ドックン・ドックン”



 心臓が一定のリズムで鳴る。ひりつく緊張に喉が渇いてきた。


 このシュヴァリエは何かがおかしい。私では……はかりきれない……。


「ふふふ。なんだいあれは。また、怖気づいたのかい?」


 バラビアが、小さくで私を嘲笑あざわらう。


「ほんとにビクビクビクビク情けない女だよ。そんなんでこの先、地上でやっていこうなんて思っているんなら、とんだ甘ちゃんだよ」


 バラビアの声に、耳を貸してはいけない。集中して――……


「あんたみたいなのは一生、辺鄙へんぴな村の穴倉で、後ろのガキと一緒に、仲良くビクビク震えていればいいのさ。小動物にはそれがお似合いだよ」


――見返したい! 私はもう! 怯えて隠れるだけの自分を……今度こそ!


「勝負します。コールでお願いします」


 言われたい放題、思われ放題で終わりたくない! ここは勝負だ!


「オープン」

 手札を開くと同時に私は宣言する。


「役は『クイーンズ』です!」

 私の宣言に会場が大きく沸き立つ。


「やった! 三番目に強い大物役だ!」

 ヘタの喜ぶ声。決まったと言わんばかりの割れるようなギャラリーの歓声。


 だが――それをかき消すように


「残念。私は『クラウン』だ」


 手札を確認する。手役はキング一枚と四種のナイト――

 紛れもない『最強役クラウン』!


「そんな! そんな大物役で全く乱れたないなんて――」


 そして、私のクイーンズから、まさかのユグドの逆転勝利に、会場中がさらに沸き立つ。それほど劇的な、まるで台本があったかのような展開に、いつの間にかギャラリーの応援までもが、完全にユグドに傾いている。


「クラウンは倍付です。残念ですが……ニーナ様の金貨はこれで丁度0枚――決着です」

 サーシェスさんが、静かに告げる。


 この十八回戦に『丁度0枚』という偶然……できすぎている。


 まさか、この勝負で丁度、私がぴったり負けるように――ゲームは進行されていた? 最初からすべてイカサマ?

 でも、そんなそぶりはなかった。なら実力で? わからない……。


“ドックン・ドックン・ドックン”


 だって、あのシュヴァリエは今も……


「ずいぶんときれいな耳だね。まるで、本物みたいじゃないのサ」

 勝負の終了と共に、バラビアが私の前に立つ。


「私の目が誤魔化せると思ったのかい? あんたがハーフビーストで『特別な耳』を持ってるのは、気付いてたんだよ」


 まさか、私が『ハーフビースト』だと気付かれていた!?


 そんなのありえない! ヘイザードは私に目をつけたときから、横取りされないように私がハーフブーストだということは誰にも話していなかった。

 村でみんなにバラしたのが、最初で最後。あのあとすぐに処刑されたと聞いていたのに――どうして――


「――私もハーフビーストなんだよ。あんたは『猫』で私は『蛇』さ」


 しかも私が『猫』のハーフビーストかまでバレている!?


「私の生まれた世界にも不思議な事に『猫』はいたよ。猫は動物の中でも特に『聴力』に優れた生物だった。キミのその第二の耳には人間では聞き取れない音……つまり、私の心臓の鼓動さえ、聞こえていたんだろう?」


 私のこの猫の耳が、人間には聞こえない音を聞き取っていたことまでバレていた。


「ディーラーはイカサマのような技術は身につけられても、心理の操作までは難しい。クラウンカードのようなレイズもある心理戦では、なおさら鼓動ほんのうを押さえ込むのは難しい。だが、その優秀な耳が、仇になったな。私はあえて、バラビアに小声でしゃべるよう、ゲーム前から指示をしていたのだよ」


 じゃあ、バラビアのあの『誰にも聞こえないくらいの小さな言葉』は――すべて私に向けた挑発だったの!? それに気付かずに私は――


 でも、どうしてこのシュヴァリエはその本能を抑えることが……龍之介さんも虎二さんも、そんなことできないのに……。


「あんたは必死にユグドの鼓動の乱れを探っていたようだけど、そんなのは無意味サ。ユグドが信じてるものは自分の手役じゃない。もっと大きな、揺るぎないものなのサ」


 このシュヴァリエが信じている、揺るぎないモノ? いったいそれは――


「それは必然だ。『そうすれば、そうなるべくして、そうなる』という、揺るぎない解答だ」


「『必然』じゃと?」

 龍之介さんが、言葉の出ない私の代わりに尋ねる。


「『必然』――それはこの世の法則。すべての現象には必ず理由がある。そして、この勝負にもそれは確かに存在する」

 ユグドは並べられたカードを並べる。


「最も簡単なところからいえば、このカードの山札だ。例えば、この使用されているカード……これは地上の王都で市販されている玩具だ」

 ユグドは並べられたカードを指さす。


「勝負の際、これはこちらが用意した未開封品を使用した。だが、そのカードの並びは、決してランダムなどではなく、販売者が、規則正しい順番に並べ、梱包している。そして、それをお前の仲間とディーラーがカットした際、私はそのカットされた厚みを分析し、どのようにシャッフルされたかを、脳内に情報として蓄積することができる。つまり山札のカード総数すべての位置が、私の脳内に再現されていたのだよ」


 脳内に? つまり、この勝負すべての山札が、すべてが彼には透けて見えていたということ!?


「この情報を利用し、次にこのゲームをどう進行されていけば、お前の金貨をピッタリ0にできるかを逆算する。どこでカードをチェンジするか、現在の山札の状態、一回戦ごとの金貨の移動、お前の選びやすい役札の傾向や、勝負に対する心理状態、バラビアの挑発、それらすべてを情報に変え、この小さな脳内で現実より先に再現していた。そして、私はこの十八回戦で、お前に『クイーンズ』私に『クラウン』の手役が来るように調整し、勝利することで丁度お前の金貨を『0』にするという『解』を導き出したのだ」


 つまり……私の行動すべてが読まれ……このシュヴァリエによって、動かされていた。


「これが『必然』――『そうすれば、そうなるべくして、そうなる』という逃れられない解答だ」


 ユグドの言葉が、ずんと重くなる。


「キミ達は不夜城に来るべきではなかった。『不夜城に来て、勝負をして、すべてを失う』それがキミ達の『必然』だ。せめて、それを学んで、帰りたまえよ」


 ユグドは最後にそう言い切って席を立つ。


「これが――シュヴァリエ」

 私はその言葉を受け止め、まだ信じられずにいた。


 まさに神業かみわざ。これが人間を……異能を持つハーフビーストさえ、超えたシュヴァリエの力。


「ッチ。この手の勝負じゃ、相手の方がずいぶんと上手だな。ありゃ、『』だ」


のシュヴァリエじゃと?」

 龍之介さんが虎二さんに尋ねる。


「お前のように武功でシュヴァリエになったやつじゃなくて、知略……例えば、何かの法則を発見しただとか、その後の人類史に大きな遺産を与えたとかそういう偉人だ。智のシュヴァリエは、女神の加護が筋力や体力じゃなくて、情報の処理能力だとか、記憶力、あとは観察眼・五感なんかに振られるのさ。しかも、あれは見る限り、生前の相当の知能を持っている。それこそ、加護なんていらないほどに。おそらく、今のあいつはスパコンレベルかそれ以上の計算・処理能力、記憶力があると見ていいぜ。もしかしたら、あいつの目にはすべてが数式のようになっていて、この世界と脳内の仮想現実が同義になっているほどかもしれねぇ」


 脳内とこの現実世界が――つまり、あのシュヴァリエ、ユグド・ユグドラは未来予知にも似た力を持っていた。


 それは、とても私なんかでは相手にできる存在じゃない。


「さて、アンタの負け――文字通り無一文でここを出てもらうよ」

 バラビアは最後に吐き捨てるように背を向ける。


 私はその背中に何一つ――言い返すことができない。


「姉さん……」

 ヘタが心配そうに俯く私の顔を見つめている。


 負けてしまった。すべてを失ってしまった。その喪失感は、もちろんある。これからどうすればいいのか、そんな不安感も、もちろんある。


 だけど、そんなものよりも……今は……ただ……



「――くやしぃ……」



 押さえ込んでいた言葉が零れた。


 ヘタの前で、みっともない姿を見せたくなかったのに――自慢のお姉ちゃんでいたかったのに――私は本当は臆病なところも、いつも不安で情けないところも、すべて見られてしまった。


「……くやしい……よぉ……」

 涙も零れる。


 あんなに勝負は、慎重になるようにと大人ぶったことを言ったのに。


 ヘタの静止も振り切って勝負したのに。


「フン。みっともなく泣き出すなんて――金のない奴はとっとと帰りな!」

 バラビアが恫喝どうかつする。


 するとあたりはざわつき、ちらほらとギャラリーの中から


『カ・エ・レ!』『カ・エ・レ!』『カ・エ・レ!』『カ・エ・レ!』

とコールが鳴り響く。


 それはだんだんと全体に広がり、ギャラリー全てが合唱し始めた。


「……………」


 また……ダメだった。


 いつもそうだ。私はいつも怯えてばかり。


 ヘタの両親に出会うまで、私は隠れて生きてきた。


 救われて――家族になってからも、捨てられるのが怖くて――怯えていた。


 両親がなくなり、ヘタと二人っきりになって――ヘタと村を私が守るんだと、必死に働いた。


 働いたけど――すぐに無理だとわかった。


「私は………わ、私は……」

 声が震える。うまく、言葉にできない。


 だから、ヘイザードに身を売ることで――自分を犠牲にすることで、何かを守ろうと思った。


 私だって命を捨てれば――何かを変えられると思った。



 だけど、それは間違いだった。



 龍之介さんの背中を見て――命を捨てるのではなく、命を賭けて挑む姿に、私もヘタも憧れた。


「……ご、ごめんな……さい……」


 だから、私も挑んだ。


 不夜城に来て、初めてハーフビーストで良かったと思った。


 この力なら、私も闘える。幼かった頃のように怯えて震え、ただ誰かが手を差し伸べてくれるのを待つのではなく、手を伸ばして大切なものを掴むのだと――


「が、がん……ばっ……けど……」


 悔しさを押し殺し、押し殺し、それでも堪え切れずに、体から溢れ、涙となって、それは頬から零れる。


『カ・エ・レ!』『カ・エ・レ!』『カ・エ・レ!』『カ・エ・レ!』


 合唱の声が私の声をかき消し、押し潰す。重圧が私を縛りつける。


「わっ……な、何も……できな――」


「――――黙れ!」

 ギャラリーの合唱のなか、一人の男の声が響く。


 それは、易々と大合唱の声を打ち破り、静まりかえらせるほどの、気迫に満ちれていた。


 その男は靴を鳴らし、静まり返った舞台の上を一人歩いて、


「おい婆さん。今度は同じシュヴァリエ同士、ワシとそいつで勝負じゃ」

 声の主は龍之介さんだった。


「……はぁ。キミは馬鹿か? さっきの説明で何も理解できなかったのか? 君では――」


「何か言うとったようじゃが、お前さんの言葉なんぞ右耳から左耳に抜けていきおったわ」


 ユグドの言葉を簡単にさえぎる。そして、私の隣に立った。


「じゃが、ニーナの『くやしい』っちゅう言葉は、頭から離れん。この『心』から離れんのじゃ」


 そして、彼はテーブルに強く拳を叩きつける。強く叩きつけすぎて、手の皮がける。


「ニーナ。お前の悔しさ……ワシにはちゃんと聞こえた。お前の意志はちゃんとワシらには伝わっとる」


 私は零れる涙を無視して、目を見開いて龍之介さんを見た。


「じゃから、『何もできない』なんて言うな。お前は、たった一人で勇敢に挑んだんじゃ。それは――例え勝負に負けたからと言って、失われるもんじゃない」


 龍之介さんは笑っていた。その笑顔があまりに優しくて――


「じゃから、俯いとらんで、胸を張ってくれ」


 あまりにも優しくて――私はただ、彼を見つめることしかできなかった。


「――それに引き換え、お前さんは、勝ったにもかかわらず、つまらなそうな顔じゃのう」

 

 龍之介さんはユグドを見据える。ユグドも、龍之介の目を見つめる。


「じゃがな、それはお前さんがまだ何もわかっとらん証拠じゃ」


 ユグドの眉がピクリと動く。


「私が……何もわかっていないだと?」


 表情も鋭いものになる。その顔を見ても、


「お前にとびっきりの……本物のギャンブルを教えてやる」

と龍之介さんは笑う。


“ドックン! ドックン! ドックン!”


 バラビアは突然のことに舌を巻く。


「なんだい……このシュヴァリエ。まるでユグドとは逆。冷静で体温一つ乱れないユグドに対し、こいつの体温がどんどん上がっている。見ているこっちが火傷しそうじゃないのサ!」


 蛇は体温で『彼』を感知する。


 猫は耳で『彼』の音を聞く。


“ドックン!! ドックン!! ドックン!!”


 熱く滾る鼓動は――喧噪けんそうで――轟音ごうおんで――


「……面白い。なら私にわからせてみせろ! その『ギャンブル』と言うやつを!」


 私のこの気持ちも、かき消すくらいに、力強い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る