115、どうしよう、こうしよう。
話を終えると、なんとなく納得のいかない表情の子供とつまらなそうな表情をした大人におおよそ分かれた。
理由は分からなくもない。自分の出した案がすっきりとは言い難いものだからだ。
だが容易く間違っていると言い切れる類のものでもないはずで。ざっくりとまとめて言えば、正しいけれど時間のかかる案という感じでじれったい分すっきりとはいかない。
つまり、信頼は時間をかけて関係を醸造すべきという考えだが、それだけでは商会の人間を納得させることはできないだろう。だから、そこはつなぎが必要だ。
良い関係ができるまでの、決定的な関係構築にはならない程度の関係性。
色々な考え方があるだろうけれど、俺の描いた案は単純なものだ。
「双方有益な関係の構築」
「って、具体的には?」
オーリの突っ込みにどう説明しようかと考えて、しかし、ちょうどいい実例があったので、それを使うことにする。
「坊。事前の支払い条件で、今日までの売り上げ、利益を計算するとどんな感じ?」
「あ、はい」
紙をめくる音がして、しばらくすると答えが返ってくる。
「マルさんへの投資分は返ってきてて、普通の出店料分も取れてる……かな。うん、まぁ、そんな感じで収益の見込める投資になってるんじゃないか、と」
「そういうことだよ」
若干乱暴に、オーリに返答し、坊に礼の意味で頭を下げる。
わたわたと、左右に手を振り返す坊だが、そういう数字をきっちり出してくれる人がいるとやりやすい。特に商人と話す材料にするためには。
「つまり、あー、金になるやつを商会のために働かせるってことか?」
「んー、惜しいが正しくないという感じだな」
「オーリさん、多分ですが、補足します」
坊が口を挟んでくれた。
「恐らく、思想的には、教育のカテゴリに入ることだと思います」
「教育って、勉強させるってこと……だよな?」
「まぁ、そうなのですが、一般常識、一般教養を教えるようなものとは違うものを考えておられると思います」
それはつまり、と指振りながら言う。
「そこから一歩進んで、専門的なことを習得させる。とそんなことを考えているのではないか、と」
「えっと、そうなると、……どうなる?」
「そこで、例として挙げたのが、此処。というか、マルたんですね」
つまり、
「クラス適正にあった、専門的技術があれば、孤児院を出て直ぐでも金を稼いで自活できるし、投資をすれば返してくれると、そういうことを証明したのです……まぁ、一例ですが」
彼女の言はほぼほぼ俺の言いたかったことと変わらないので、補足も大きなものはない。
若干気になるのは、彼女の発言がどの立場からの物なのかということくらいだが、今見ている限りでは立場をフラットに保というとしているように感じるのでさほどの問題はないだろう。
「それなら、これからもそういう例を作っていこうとしている?」
「わかりやすく言うならばそうですね。優秀な人材を育て、街に送り出すということを孤児院が担い、有望な才能への投資ということを商会が担い、投資に応じた見返りが商会に与えられ、孤児院は送り出した子供に保護を与える」
指折り上げていく坊。
「ある種、これまで暗黙でそのぶんある程度なあなあでやってきた部分を整理するということです。ここで効いてくるのが、あなた方の孤児院が街の外にあるということですね」
そこまで話すのか、と思ったとき、すでに彼女は説明を開始していた。
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