114、宿題の解き方の相談
単純化して問題を考えるなら、目的を何にするかを決めるべきである。
「つまり、天秤に乗せるものを何にするかという話だな」
「さっき候補に出たのは、なんでしたっけ?」
クヌートがわかっているであろうに問うてきたのは話を円滑に進めるためだろう。
「信頼、利益、服従、それらと違う関係を作る、とそんなところか」
「違う関係というのは……えっと、他の組織と結ぶということでしょうか?」
シノリの問いへの答えは、
「別の組織と手を結んでゼリア商会の縁を軽視する、あるいは逆に、ゼリア商会と協力関係とは別の絆を結んで代わりに協力してもらうどちらも含めて、って感じかな」
どの案を採用するかを選ぶのもいいが、それは言葉を尽くしてからのほうがいいだろう。
この時点で決められることがあるとしたら……、
(その逆だな)
「ということで、今上がった案の中で受け入れられないものがあればそれを挙げよう」
「受け入れられないもの?」
「嫌なものは嫌だろう? 嫌々やっても得られるものは少ない、と俺は思う。だから、さっきの案のうち、受け入れられないものがあるなら先に挙げたほうがいい」
あくまでも自分の考え方だが嫌々でやっても身につかない。だったら、そういう方針は早めに切ってしまうのがいい、と思う。もちろん、自分で自分の行動を選べる余裕がなければ難しいが。
子供たちは、それぞれに顔を見合わせた。大人組は興味深そうな顔をしている。
そして、幾人かの子供たちはおずおずと手を挙げて。
「……さっきの言葉だと、服従は、ちょっといや」
「そう? でも、服従っていうのは上の人の言うことを聞く代わりに守ってもらうってことだよ?」
「でも、そうなると……えっと、今言ったみたいに、上下ができる?」
「ふむ」
彼らの言葉は素直な感情から出ている、と思う。上下を忌避するというのはなぜだろうか?
と思っていると、子供たちが偶に視線を向けている先がある。
シレノワに少し、そして、坊にもう少し多く。
「なるほど、上下ができると友達になれない、と。そんな感じかな?」
「あ、うん。そんな感じ、かもしれない。あと、自由がない」
気持ちを言葉にするのに慣れていない風でこちらの問いにうなずくか首を振るで答えることが多いが、しかし、その反応に迷いがないことから、自分の中の気持ちをつかむこと自体はできているようだ。
ほほえましいと思いつつ、その直感は正しさもあるだろう。友人になりえる相手の数を減らすというのはいいこととは思えない、そんな素直さから出たのだろう。
その認識が正しいかどうかは、いったん脇に置くとして、そのように感じているならその案は外しておこう。少なくとも今は方針を決める時間であって、贅沢にも選択をできるタイミングだ。
「じゃあ次は、やりたくない、ではなくて、できない案というのを挙げてみようか」
「不可能ということ?」
「まぁ、そんな感じだ」
ニコの質問に答えつつ、さっきの案でそれがあるだろうか、と考える。
しかし、それよりもシノリが手を挙げて反応するのが早かった。
そして、その答えは……、
「婚姻関係……だけじゃないでしょうけど、そういうのを結ぶのは難しいのでは?」
「ふむ、どうしてか、聞いても?」
「はい。まぁ、単純な話ですが、このタイミングでそんな話を持って行っても、損得勘定からきているという風に思われるでしょうし、今の時点で『そういう関係』になりそうなほどに、好き嫌いを持っている子がいるとは思えないですが」
「……マルとかかわいがられてるんじゃないの?」
オーリが口を挟む。マルは聞いていなかったようで、首を傾げた。
代わりに答えたのは、首を左右に振っている坊だ。
「あれはそれこそ投資の類でしょう。そして、細かいことは言いませんがあの人に婚姻関係でそれを持っていくのは不可能、とそう考えてくれたほうがいいです」
「不可能、ね」
「そうですね、家族関係にというなら……えっと、養子とか、それくらいはありえなくはないでしょうが、それこそ、今回、失った信頼以上の信頼を積み上げないと無理だろう、ということは言っておきます」
坊には何らかの確信があるらしい。それは性格をよく知っているからかもしれないし、あるいは、こちらの知らない何かを知っているのかもしれない。ともあれ、特に疑う要素もない。
「じゃあ、その線もなしで」
「そうなると、候補としては、利益を積むか、信頼を取り戻すかですね」
――ちなみに、他の組織と手を組むのは、かなりの数の組織の間を利益調整しつつ信頼を得つつ走り回らなければならないので却下となった。
「じゃあ、方針を決めようか」
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