113、宿題についての対策会議
言うだけ言って去っていった商人を見送ってさてどうしようか、と僕らは顔を見合わせた。気まずいというよりもどうしたら良いのだろうか、という沈黙だ。
どういうときでも、そういった雰囲気を割り割いてくれる人はありがたいものだが、今回の場合、それは坊だった。
「えっと、うちの主の場合はあれで本心だと思います……、要するに本気で、信頼したいから信頼させてほしいと言ったのではないか、と」
「あー、うん。ありがとう」
少し意外なのは坊がここに残っていることだ。逆に言うと、それが信頼をしたいという期待値なのだとも思えるが。
さて、考え事をして頭の中を整理したいとも思えるが、それよりもすべきことがあると判断する。正しさのために頭の中で考えを巡らせるよりも、この場にいる皆で考えることが重要だ。
極端な話、安定するかどうかを度外視すれば、この冬を越えるのはなんとかなるだろう。どんな手段を用いても、という話なら。
何を得るかについてそのラインを保てるのなら、次に考えるべきは、如何に得るかだと思う。ある意味では、先程、ゼセウスの教えてくれたことの踏襲――勝ちではないかもしれないが『勝ち方を考える』というやつだ。
「方針は幾つも考えることが出来る。坊の前で言うのはあれだが、ゼリア商会のラインを完全に慮外にして他の方針を考えるというのもありだ」
「えー」
当然、坊は口を横にする。
「大丈夫、それで行こうってんじゃなくて、気楽に考えようってことが言いたいだけだ」
「あー、まぁ、はい」
納得していない表情で坊はうなずく。
「一応、主の願いは信頼を損なった分の補填という意味合いですので、天秤の釣り合いが取れれば他のものでも良いとも取れます……まぁ、その場合はこれまでとまた違った関係になると思いますが」
「違った関係?」
疑問を挟んだのはニコだ。他の子もどんどん発言してくれると良いが、最初の発言はニコかオーリだと思っていたが、いいタイミングで挟んでくれる。
頭をなでてハグしたくなったが、まぁ、今はしない。
その思いが表情に出ていたのかわからないが、坊に微妙な目で見られる。
「――例えばですが、天秤の逆側に利益を乗せるのならビジネスライクな関係になるでしょう。出来るかどうかは別として、ゼリア商会の傘下につくと言うなら協力が大きくなって自由は少なくなるでしょう、単純に方法として、主に誰かを嫁入りさせればまぁ、そういう関係になるでしょう」
「んー、今の関係は?」
「そうですね、いうなれば、信頼と期待分に対しての協力という感じでしょうか……ふむ」
坊は一瞬考え込んだような表情を浮かべる。
一つ小さくうなずいてから顔を挙げた。
「まぁ、投資ですね」
「そういうことになるんですか」
首をかしげながら頷くという器用なことをしているのは、クヌートだ。
完治とはいかないが、若干、ゼセウスに凹まされた分が戻ってきたようである。
「ちなみに、先程何を考えたんですか?」
「いえ……えっと、主が私と同じ考え、つまり、信頼と期待を天秤に乗せていたとしたら、先程、『損なったのは信頼』といっていたのが、別の意味になるかな、と」
「……それは、少々ロマンチックな解釈では?」
「そうかもしれませんね、だから言わなかったのですが」
坊は若干頬に赤いものを混ぜつつ言い返す。
・
さて、そのへんを踏まえつつ、もう少し皆で話してみよう。
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