116、役割・分担

「街の外にあると何かいいことがあるの?」


 オーリは聞く。周囲の子供達も興味津々のようだが。どうだろうか、これは言ってもいいことなのかどうか、と一瞬頭によぎるものの、それより早く声を出したのは意外なことにリノだった。


「あ」


 何かに気づいたという、言葉に対して反応したのは坊。


「リノりん何かに気づきましたね?」

「えっと、でも」


「間違っていたら、誘導した私が悪い、口にした言葉で傷ついたら……そうですね、こんなシチュエーションにしたフツさんが悪い、とそういうことで、推測でもいいので言ってください」


 テンションが高い、と感じる。それは、こういう話題についてこないだろうと思っていた少女が頭を回してくれたことがうれしかったのか、あるいは、雰囲気に乗っているのかはわからないが。


「えっと、多分、坊ちゃんの言ってるのって、街の中の孤児院に対して、街の外の孤児院がってことだと思うから……その」

「うんうん、良い感じですよ」

「あ、うん。えっと。子供たちの種類が違うんじゃないかなって」


 言ったリノに対して、周囲の子供たちの態度は先ほどの興味津々の表情のまま。

 これは、もしも子供たちサイドでない人間が言っていれば微妙な空気になった気がする。


 意図してかはわからないが、リノのファインプレーだ。

 種類が違う、というのはつまり、


「つまり?」

「あの、クラス適正……」


 少し説明をしよう。この街、オーバンステップはこの規模の街にしては立派な壁を持っている。

 これは、オーバンステップが鍛冶の街であった過去があり、そして、煉瓦の生産に適した土地だったからだが、重要なのはそちらではなく、いくら立派な壁といっても、その中に都市の全人口は入らないということだ。


 正確には、壁の外で暮らすべき民がいて、彼らは壁の外に住んでいるといったほうが正しいかもしれない。つまりは、農耕を収入源としている人々だ。


 この国の場合、農村という行政単位はない。納税は基本的に街壁を持った都市単位で行われる。農村であっても街壁都市に納税をするのだ。代わりに有事の際には外壁内に逃げ込むことができるし、そもそも、恩恵が少ない分は税制上の優遇も図られている。


 非常にざっくりというと、ある程度の範囲を好きに開拓してもいい代わりに都市に食糧を供給する役割と思えばいいだろう。

 納税は、商会に納められたあと、現金で行われる。この体制についても利点欠点はあるが、農業の発展への投資を選択的、集中的に行えるという利点だけをとりあえず挙げておこう。


 そうなると何が起こるのかというと、別に法で決められているわけでなくとも農耕従事者の子供は農耕従事者となることが多い。


 壁の外に住んでいることで必要になる生活の知恵などが違うし、人口密集の利点が生かしにくい。要するに教育を施そうと思えば、子供たちを集めなければならないが、小さな子であれ立派な労働力にカウントできれば学校に行かせるという選択肢は取りにくい。


 となると、自然家庭内学習が多くなり……結果、親と同じクラスになることが多い、と。

 つまり、壁外で貧困時に捨てられる子供というのは、


「農耕系のクラスではない子が多いはず……」


 もし、そんなクラスなら貧困であっても戦力になるはずだ(マルのように)となれば、そうならなかった子が捨てられるということになるのでそれ以外のクラス適正がある場合が多い。無論、これは全てのケースに当てはまるわけではない。作物に問題がなければ別のクラスの才能を持っていても農家で育つ子もいるし、貧困が極まれば農耕系のクラス適正があっても捨てられておかしくはない。


 そうなると、壁外で孤児になりやすいのは、同じ貧困度合いなら、『農耕系以外のクラスに目覚めた子』『まだ、何のクラスかわからない子』『農耕系クラスに目覚めた子』の順番となる。


 つまり、孤児院に来る子に生得的なクラス持ちがいたのはそういうことだ。そして、『捨てる』というきつい言葉を使ってはいるが、根本にあるのは、手元でなくとも生きていてほしいという判断だと思う。思いたい。


「えっと、街の中よりも、職人? 物を作る人? そういうクラスの人が多いんじゃないかなって」

「なるほど、その推測は私の物と一致しています。つまり、投資のし甲斐がある才能が多いんじゃないかという話ですね」


 そう。そして、その例えの、一人はマルであり、ニコもそうだろう。オーリはここで上げるには微妙なので、次に期待しているのが、今声を上げているリノだ。


「つまり、才能を磨いて、投資対象として育てることで商会の金の使い道を作る、と」

「そこまで行くと言葉が大きいような気もするけど、方向性的にはそういうことだ」


 孤児院が与えるべきは保護、だが、その内容を教育と訓練にも向ける。そうすることで、卒業後の生活の手を持ってもらう、とそう考えれば本来の理念から外れているともいえないだろう。

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