105、まるく、まるめる

「僕の視点からの情状酌量の余地としては、その人が自分のことを話そうとしていたってことだ」

「……どうして、それがわかるんですか?」

「単純に、その先駆けに立ち会ったからだよ。つまりは、最初の告白……最初の告解、それには間に合わなかったけど、まぁ、なんとかその次くらいにね」


 その分かりにくい前置きをして、彼は話した。

 俺がニコに自分のことを話し、そして、全員に説明するつもりであったと説明してくれた。


「まぁ、ニコが特別で、最初だったというだけで、皆にも説明する気だったよ。僕はたまたま、街組ではなく、居残り組になったから先に聞いたってだけだよ」

「……なるほど」


 過去を語るということが心理的な抵抗のあることだと言うのは、リノも納得するところなのだろう。言い出しにくかったことについてはそれほどの思いは無いようだ。しかし、言わないという判断のままにあったことでオーリが傷ついたのが許しがたいということだろう。


 そして、『街組』。先行してマルの店の手伝いのために街に出ていた側が……それこそ、俺と近しいメンバーが多かった。

 つまりは、俺が目を覚ました時に顔を合わせたオーリ、孤児たちの代表のような立場にいるシノリ、台所役として店をやるときにも連れ回したマル、そのあたりがごそっと街組なのだ。


 俺が任せられると思ったメンバーが街に行っているのだからそうなった事自体は不自然なことではないのだがそうしたことで、俺が心情を吐露するには障害が大きくなったと……多分、そんなことを思ってくれているのだろう。


 リノは、こちらを見てから、いわゆる街組のメンバーを確認するように視線を巡らせていた、その本人も街組なのだからなんとも言い難いようだ。


「まぁ、言い難いというのはわかりました。言いにくい状況だったというのもわかったつもりですし、言おうとしていたというのも信じてあげましょう。ただ、信じるというのは……」

「うん、君の個人的な心情になってしまうから、全員の統一見解ではない、とそういうことだね」

「そうです。私の納得が全員の納得になるかどうかは私にはわかりませんし、私が保証しなければいけないことでもない、と思います」


 なるほど、確かに。彼女の感情は彼女のもので、納得を他の人に受け入れさせるとしたらそれは、リノの側ではなく今の状況としてはクヌートの、根本的には俺の役割だ。


 だから、代わりとしてクヌートはそうした、

 第一として、ほうけた表情の年中組の数名を呼んで、

 彼ら彼女らを前にして、俺の方を指さした。


 そして、その子達に告げた言葉は、諭すような言い方だったがまとめるなら、

「あの人に何をしてあげたい?」

 とそういう疑問。


 子供たちの答えは、

「いたい?」


 子供たちの輪から一人が前に出て、近寄ってきて、椅子に横たわるこちらに聞いてきた。

 包帯の上からそっと触れてきた感触は、とても小さな指先であることを教えてくれる。


「ちょっとね」


 実際には、それ自体には痛みというよりも、圧迫を感じるほうが強い。頭の痛みとしてあるのは基本的には表面皮膚の擦過傷で、そこに鈍い頭痛が少し混じっている。


「えっとね。いたくなくなりますように」


 少女の指先が、ためらいながら包帯の上をなぞり、触れ。

 盛り上がった傷跡で止めて、おまじないをつぶやく。

 強いけれど広がるようではない声が、しんとした場に広がる。

 見守っていた数人が、納得と受け入れとして頷く。


「理解していない小さな子、というのもあると思いますが」

「理解できるようになったらまた話せばいいと思うし。少なくとも今、あの子達は受け入れようとしてる……と思う」


 リノは諦めたような声音で懸念を告げて、クヌートは安堵を滲ませつつ懸念を解く。

 俺は、どこか拗ねたような表情のニコに笑みを向けながら、傷口に触れる手のなされるがままになっていた。



「これで終わり。解決……としても良いんですが、まぁ、話し合いの場に引き出した餌の分として、その人がいるメリットもしっかり説明してもらえますね?」

「いい感じですね、リノ先輩。勿論、いいですよ」


 というわけで、次はそういう話をすることになったようだ。

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