017、街にある神殿とレベルアップの料金

「それでよかった?」


 レイピアを選んだ。

 杖のように使ってもいいといわれたがニコがそれを嫌がったのでニコの肩を借りている。


「正直言えば全部ほしかったけどな」


 切れ味はいいし頑丈そうな鉈なら、俺だけじゃなくオーリにも使えただろう。

 杖は、ニコが嫌がったが便利さで言えば一抜けだ。

 誰も杖を持っていることをとがめるものはいないだろう。

 レイピアは場所によっては武器取り上げなどがあり得るし、レイピアを正装にしている騎士団なんかがあったら目を付けられるかもしれない。

 それでもレイピアを選んだのは……、


(カバーできる範囲が広くなるからな)


 ダンジョンに潜る場合。パーティーを組む。

 ダンジョンはその侵入者に大人数での行動を妨げるように反応するが、経験則的に六人までなら反応しない。

 この反応するしないは、時と場合によるのだが、通常時は六人以内なら大丈夫、とそう考えればいい。

 で、そんな人数で戦闘する場合、杖やマチェットではカバーできない範囲までカバーできるかもしれない。

 子供たちと潜るかもしれない、と考えた場合、カバー範囲は金を払ってでも買うべきものだった。

 それに、このレイピアは売値の割にはいい品のようだった。


 というよりも、

(訳アリ品?)

 何らかの性能以外の理由で売れなくなった品という感じがした。

 新品であるにも関わらず変な話だ。


「ところで」


 ニコがこちらに伺うような視線を投げている。何だろうか。


「お婆さん、習いに来る、いい?」

「……ん?」


 お婆さんってのは、たぶん薬屋のお婆さんか。それに習いにって事は――、


「あぁ、あの店に通いたいってか……そりゃまあ、別に俺が決めることじゃないけど。いいんじゃない?」

「すねない?」

「なんでだよ」

「寂しくない?」

「なんでだよ!」

「ならいい」

「いいのか……」


 まぁ、薬屋で何かを習ったりやってみたりするのはレベルアップにつながるだろうし、薬屋とのパイプも太ければ太いほどいい。


「……あ」


 ニコが声を上げる、視線を追うとシノリが歩いてくるのが見える。

 地図を片手にそちらを見ながら……あ、通行人にぶつかった、うん、特に問題はなさそうだが。

 謝って頭を下げているが、お、こちらに気づいた。

 てくてくと、今度は周囲に気をつけながら歩いてきた。


「どうも、お待たせしました」

「大丈夫?」

「はい、鉛筆を落としちゃいましたけど」


 返してもらう。検めると端が掛けている。とはいえ、機能には支障がない。


「問題ない。そっちはどうだった」

「うえっと、リトルリトルな神殿は先生と来たことがありましたので、位置の確認をしてきました。あとは……」


 言いながら書き込まれた地図を見ると、何個かの点が描かれていて横に丁寧にシンボルと感想が書かれている。


「一応わかるところは書いてきました。ちょっとずるをしましたけど」


 といって微笑んでいる。意味は……地図に書かれたものを見れば大体わかる。


「最初に行ったのが薬神・マーレイヤの神殿か」

「あ、はいそうです」


 子供の守護者である二柱を祭る、リトルリトルの神殿と薬神の神殿は少し丸い文字で書かれていて、それ以外の神殿については硬い文字で書かれている。

 たぶん、薬神の神殿に親切な神官でもいたのだろう。

 他の神殿の情報を書き込んでくれているらしい。


「ふうん、商業神は街の中央に近くて、農業神は食べ物通りの近く、狩猟神は……街の外か」

「後は調理人のレベル上げの神様はいないそうです……あ、この街にはですけど。成功率的には、農業がお勧めで、薬神、狩猟の順番だそうです」

「そうか、それは知らなかった。ありがとう」


 レベルアップは基本的には担当の職能神のところで行うが、それが困難な場合は別の神殿でも可能だ。

 経験値が十分なら、神官に頼んでレベル上げの儀式ができる。

 ただし、経験値の奉納が神官の信仰する神と離れているほど成功率が下がる。低い成功率では交神に回数がかかるので、触媒消費量が多くなり――まぁ、価格に跳ね返ってくる。しかも、神官的には自分の神様以外にささげてもあまり経験値に寄与しないので、殆ど慈善事業の形だ。


 ちなみに、下級の神官が中級のクラスレベルを上げるようなことは自分の神様だろうが別の神様だろうができないので注意が必要だ。


「あと、ついでに、って教えてもらったんですが、鍛冶神の神官は半年に一回巡業してくるそうです。他では、大工と旅人? そのあたりの神官も巡業してくるらしいですよ」


 付け加えるなら、この街は鉱山がもとになっているが鉱夫は鍛冶神の系列である。

 そのあたりの情報は俺が歩いていても手に入らなかっただろうから、彼女の手柄である。


「よし、じゃあ、マルはちょっと金がかかるかもしれないけど孤児院のクラス持ちは全員レベル上げのあてが出来たわけだ」

「はい、あ、一応確認してきましたが、薬神様の神殿で薬草取りのクラスレベルを上げるなら一回銀貨二枚、農業神様のところで調理人のクラスレベルを上げるなら一回銀貨七枚、狩猟神様のところには行けませんでしたが聞いた話だと一回銀貨一枚らしいです」


――まぁまぁ、普通か。狩猟神のところで狩人を上げるのは良さそうだが、薬神のところで薬師の場合の金額を確認する必要もあるか。

 あとはまだクラスに目覚めていないと思っている他のメンツの中に埋もれている能力がないかを鑑定してもらうのもいいけれど……そのあたりは贅沢な悩みというやつになるのだろう。


「じゃあ、魚買って帰ろうか」

「――あ、お金」

「――足りる?」

「中型の魚なら」

「投資だから、大丈夫」


 大丈夫だろうか……。



 結局、海の魚の干物は80センチ級のものが大銅貨3枚だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る