014、ギルドと神殿の役割。少女が決意をする話。
「ダンジョン制御系って何ですか?」
もらった書類に加え、走り書き程度のメモを渡された。
あのギルド支部の人員についてのリスト、つまり、この街に配属された構成員の名簿でそこにはさっきの受付のラノワ嬢の名前もある。
ダンジョン師とあるので、彼女はダンジョン制御のスキル持ちのはずだ。
「ギルドが迷宮を管理しているのは知っていると思うけど、逆に、ダンジョンってどうやって制御していると思う?」
シノリの質問にどこまで知っているかの質問で返す。
彼女は悩んだ様子だが昨日の会話の一部を思い出したかの様に口にする。
「ダンジョンの破壊とか」
「そうだな、それも一つの制御だが。一般的にはダンジョンは資源として扱うものだ。昨日の説明の通り、メリットは様々な資源が取れること、デメリットは制御できていないと危険なこと。そして、その制御は簡単に言えば定期的な剪定だ」
「剪定というと、枝を落としたりとかそういうことですよね?」
彼女はちょきちょきと言いながら右手でハサミを真似る。
「この場合は、無軌道に成長しないように調整するという程度のことだがな。実際には定期的に冒険者をダンジョンに入れて中でモンスターの討伐と資源の回収をしてもらう」
「資源の回収はともかく、討伐ですか?」
「ダンジョンがあふれたり、こぼしたりするのは、中が詰まりすぎるからだ。定期的に中の整理をしてやればそんなことにはならない」
周辺のマナを吸い上げて内部に様々なものを生成するのがダンジョンであるが、その吸い上げはダンジョンの規模に応じていて勢いが弱まることはほとんどない。
革袋にいっぱいまで空気を入れれば穴が開くか、破裂するかだというのに似ている。
「ダンジョン制御系というのは要するにそれを管理するスキルを覚えられるクラスだ」
細かくはもっとあるが重要なものをあげるなら、いつこぼれやあふれが発生するかの予測とダンジョンの規模の推定とどれくらい間引けばいいのか、あたりを調べることができる。
精度のために複数人で当たるのが望ましいが、重要な職であることには変わりない。
「あなたはできないんですか?」
「初級ギルド職員からの派生だから条件を満たせば俺もダンジョン師にはなれるはずだが、中級ギルド職員を外すわけにはいかないから、今のところ俺にはそのクラスには就けないな」
中級ギルド職員は支部立ち上げの最低限度の資格である。
「院の子供たちに初級ギルド職員の適性持ちがいれば話は早いけど」
「ギルド職員は結構安定した職業だと聞きますし、ダンジョンをするにしてもしないにしても、そういう子がいたらいいんですけど」
実際にはクラスがあることと職業に就くことは同じではないのだが、まぁ、水を差す必要もない。
「まぁ、最悪いなくともいいんだけどな。昔々、クラスの分類等々がそこまで十分でなかった時代は勘でやってたみたいだから」
「……えぇ」
シノリには引いたような表情をされるが、ノウハウがたまるまではどんな業界でもそんなもんだろう。
「それじゃあ、あとは、神殿の位置だけ確認して帰ることにしようか」
「神殿ですか、何の神殿を探すんでしょう?」
一般的に街にあるのは職能神の神殿だけである。
自然神の神殿はほとんどが街の中とかではなく自然神に相応しいどこかに存在しているといわれている。それは自然神の場合、その源に近い場所でなければアクセスできないため、という話だが。
一般人には自然神を祭ってもあまりメリットがないので気にはされない。
それに対して職能神は重要だ。クラス持ちでもクラスレベルを上げるには神官に儀式をしてもらわなければならないのでどこの街でも最低一つは神殿がある。
だた、そこまでがちがちに細かく規定された神殿に行く必要はないのが救いだ。
どういうことかというと、最下層の神官は子供の守護者であるリトルノノとリトルロロにしかアクセスできない。
そして、年ごとの祝いとして子供の『子供』レベルを上げることしかできないが、それで経験値を稼いで上のクラスになれば下級職のレベルはなんでもあげられるようになる。
ただ、これについても農耕神・アレストの神官が、薬神・マーレイヤのクラスである薬草採取者のレベル上げをする場合は成功率が低いとか、様々なメリットデメリットがある。
この場合、両者とも植物に関連しているので、まだ相性的にはましな方であるが、職能領域が離れるほど、職能が専門化する中級上級になるほど成功率が下がっていく。
そのあたりを考えると、
「出来れば薬神の神殿があるとありがたい、あとは狩猟神と、調理人の場合は何だっけ……」
まぁ、マルとオーリは下級クラスなのでまだましだ。
「ちなみに、下級クラスというのは、大事じゃない、という意味ではなくレベル上限が低いという意味」
「し、知ってるわよ、ニコ」
ニコが口をはさんで、シノリが顔を赤くする。
「あ、そういえば、さっき後で説明するとか言ってなかった、ニコ?」
「今、フツが言ってたことがほとんどその説明になってる」
「……うん?」
やはりわかってなさそうなシノリ。
「――いま、言っていたこと覚えてる、どの神殿を探すか」
「えっと、マーレイヤ様と、アルティス様と調理人の……うん?」
「調理人はマルのクラス。シノ姉も知ってる。じゃあ、薬神様と狩猟神様は?」
「え」
考える、ではなく、驚いた表情のシノリ。
そして、ニコを見て。
「ニコとオーリ?」
「正解」
どっちがどっちかは言うまでもないということだろう。
「あ、もしかして、先生の言っていた、天使の施しって」
「天使の施し?」
よくわからない単語に聞き返した俺に、まだ、驚きから冷めきっていない表情でシノリは言う。
「えっと、先生――前院長がいたときに、簡単な出納のつけ方を習っていたんですが、時々不明な収入があって。寄付とも違うところだったので何かと思っていたんですけど」
「――オーリは狩りをした獣の肉を行商人のおっちゃんに売ってた」
「ニコも薬草を売ってたのね」
「……」
ニコは答えないで視線を逸らす。その挙動のほうが雄弁な気がするが。
「あーもう、だからか! 先生はあんたたち二人が外で遊ぶのを止めようとしないし、天使の施し、なんて怪しいお金について笑ってごまかすだけだし。あんたたち二人、あー、あと、マルもか、三人は孤児院を出てもやってけてたってことね」
「それはものの見方として甘い、けど……おおむね正しい」
実際には追い出されてしまえば背景を失った子供一人になって薬草は適正価格よりもだいぶ買いたたかれることになるだろう。たぶん、これまでの価格でも適正価格よりは下のはずだ。
「ん!」
シノリは急に自分の頬を叩いた。そうすることで白い肌に赤みが強くさすが、彼女はヒリヒリしそうなその頬を気にしないように笑顔になって。
「わかった、それはいい。それも含めて院は厳しいってことね。それでダンジョン? それがあって安定するならいいわよ。オーリが持ち帰ってきた情報次第じゃ、その方向で進める、危険とか危険じゃないとか突っ込んだ話も帰ってからするわ」
こっちを見た、その視線は、最初に向けられた警戒ではなく、そのあとに見た迷っているものではなく、頼りなげに揺れているものでもなく、強くてまっすぐな、
「私は決めたんだから!」
ニコとオーリとマルが信頼を置いている本来のシノリの瞳なのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます