009、一人で山歩き

「んー、ここも候補かな」


 オーリは山の中を駆け回っていた。クラス:狩人のおかげなのか、山歩きの速度は他の孤児たちの倍ほどに達する。その速度で駆け回りながら何をやっているのかと言えば、


「洞窟、奥は見えない。気配は……んー、わからん」


 ダンジョン探しである。

 元ギルド職員であるフツが数分ででっち上げた周辺地図は要点だけを抑えるものだが意外と見やすい。

 書き込まれているのは、ニコの薬草採取地点、つまり、レッドボアとの遭遇地点と孤児院の場所であり、オーリが追加で書き込んでいくのはダンジョン入り口『っぽい』ポイントである。

 っぽい、としか言えないのは確定するための情報を持っていないからだ。

 ダンジョンに入ればわかるようだが、それは絶対にダメだとフツとシノリに言われている。

 オーリは大丈夫だと思っているものの別段、冒険するべきところではない、と思って踏み込むのはやめた。


 フツに教えられたポイントで判断して地図に書き込む。

 捜索範囲は孤児院からレッドボアとの遭遇地点のある方角に向かって四十五度。

 距離は孤児院から七キロの地点まで。


 とりあえず、そっちの方角を探す理由としては、孤児院の傍を通るような経路であれば、先に孤児院が狙われていたはずだという推測をもとにしているらしい。

 レッドボアは動物の血を好む性質と、小さな相手を優先して狙う性質がある。

 もちろん、下限はあって、極端に言えば蚊柱を優先して狙うような阿呆ではない。


 ともあれ、フツの情報では『周辺の環境に生気のない方』、『不自然に奥が見えなくなっている構造物』、『気配に敏感ならそれでもわかる』、ということらしい。


 昨日、今日で聞いた話を合わせると、ダンジョン自体は周辺のパワーを集めて不思議なものを中に生み出しているということなので周辺の環境が弱体化しているのだろう、奥が見えないというのは空間的に外とダンジョンは違うことを最も端的に表している事象だそうだ。


(気配はわからん)


 生物の気配が薄いような気はするがそれは周辺の生気がないというのと合致しているし、気配というあいまいなもので言われてもなんとも言いようがない。

 これについてはフツも期待していなかったらしく。


『わかるやつにはわかる感覚だそうだから、あんまり気にしなくていい』


 だそうだ。


「っしょっと」


 しまっていた地図を取り出し、チェックをつける。『洞窟:周囲に気配なし』と。

 現時点で洞窟が二つ、もう一つは木のうろだ。というわけで地図上には三つのチェックが入っている。

 簡単な読み書きは孤児院の院長によって教え込まれているが、オーリの文字はあまりきれいではないし、しかも、移動しながらの走り書きだ。

 読めるのはオーリ本人とシノリくらいだろう。


(四つ見つけたら戻っていいんだっけ)


 与えられた面積の半分も調べていないが、三つ。

 幾つあると想定しているのかわからないが、一時間移動したら昼食をとろうと思った。


 マルの持たせてくれたのはパンと猪の肉だ。

 脂を落として焼いたものをパンにはさんでいる、山野を歩く分、匂いが漏れにくいようにこれも塩蔵だが緑の葉で包んでくれている。

 何度か出歩くときに作ってもらったことがあるが、緑の葉のさわやかさと肉の油のバランスがいい。

 ほんとは辛みを足したい、とマルは言っていたが十分においしい。

 食べたいなぁと頭の片隅で思いながら集中力途切れないようにしてすすむ。


 途中ではぐれものらしい手負いの野犬を見かけ、罠と投石で処理する。

 肉として持って帰るのも考えたが、最近院ではやっているおとぎ話で犬が人の友人であることが多く幼年組が忌避感を示すだろうということと今は移動を急がなければならないことからその辺の木から縄で吊り下げ、動脈だけは切っておく。血抜きだ。


 十分にそこから離れたあたりで石の上に腰を下ろす。

 休憩としてマルのお弁当を取り出し、かじる。やはりおいしい。

 すっきりとしたにおいの緑の葉は塩蔵から塩味が残っていてちょうどよく肉を包む。

 パンは肉の残った脂を受け止めるが、さすがに少々喉が渇く。


 ここまで走るうちに見つけたペグの実を口に入れる。

 傷がつきやすく変色しやすい、だが、疲労に効く酸味があって、水分も多い。

 二つ、三つと口に入れれば行動するに十分だ。


 それからしばらく移動して四つ目のポイントを見つけた。周囲の探索をして、戻ることにする。

 戻ってみると、野犬の血はある程度抜けていたので皮だけを剥いで持って帰ることにする。

 内臓は土に埋めて、肉は近くの川にさらしておく。


 また、この近くを通ることがあれば回収でいいだろう。

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