004、

 クラスとは、千年ほど前に作られた世界法則による人間への加護である。


 簡単に言えば、先達の加護を受けるという護りを定式化したもので、現代では職業適性の見極めにも利用される。クラス:農家なら鍬を入れた土地は加護を受け、クラス:狩人なら手を離れた矢にも、撃ち落とした獲物にも加護が入る。


 俺のクラス:ギルド職員は少し特殊だが、まぁ、おおよそで言うとギルド活動の補佐となるスキルが得られる。







「孤児で子供なのに、クラス持ち……生まれつきか?」


「あぁ、そうみたいだね」


「子供は普通、クラス:子供」




 ニコの補足の通りである。生まれたときに祝福を受けると特殊クラスの子供となる。はっきりとした記録は残っていないが、この一点だけでもクラス法則には価値があると言われる程に、乳幼児の死亡率を激減させたらしい。


 代わりに、イニシエーションを経るまでは子供を止めることはできず、新しいクラスを身につけることは基本できない。例外もいくつかあるが、最もよく知られているのが先天クラスだ。


 両親からクラスを受け継ぐことが殆どのため、継承クラスともよばれるこれはクラスの適正と環境が揃っていることが多いので大成しやすいとも言われている。




「なら、大丈夫か」




 解体は持ち帰って行ったらしいので、解体現場を見れば澱みが残っているかどうかはわかるだろうし、そもそも、大型の猪を解体できる程の狩人なら澱みを貯めることはないだろう。




「だが、クラスが子供じゃないのに孤児院にいるとは……良い院長だったんだな」




 クラスにふさわしいことをすると経験値が貯まる、溜まった経験値を神官が儀式で奉納すると、レベルが上がる。子供は子供らしくしているだけで、通常一年にレベルが一つ上がる。


 神殿が孤児院を開く理由の一つがこれだ。子供を囲い込んでいれば一年に一度のレベルアップが行えるし、それを行うことで神官の経験値になる。


 逆に言えば『クラス:子供』でない孤児は経験値の糧にはしにくいから避けられる傾向にある。さらにいえば、何らかのクラスを持っていれば一人で稼ぎ生きていくことも不可能ではないだろうから、というのもある。




「ちなみに、私、薬師」




 ニコが主張をしてくる。が、俺は一瞬胡散臭げな表情を浮かべてしまう。薬師は中級クラス。レベル上限が下級クラスよりも高くなる。普通は、下級クラスが上限に届くあたりでつくようなクラスだからだ。しかし、初めて彼女を見た森の中で彼女は薬草を摘んでいたとのことだし。


 その薬草は確か……。




「そうか」




 確か、雪割花という採取にレベルの必要な花だったはずだ。彼女の言っていることは間違いではないだろう。少女が薬師であるというのはおかしな話だが、レベルもないのに薬草採取をしていたというよりは信じられる。




「……あ、兄ちゃん。他の奴には秘密だぜ」


「うん?」


「俺とニコがクラス持ちって事、知ってるやつもいるし、隠したいわけでもないけど、あんま知られたいことでもないんだ」


「あ、あぁ。わかった」


「おう」




 こちらの口約束を頭から信じたようにオーリは、にししと笑う。


 俺は苦笑を返すしかない。




「ちなみに、良ければ兄ちゃんのクラスも教えてくれるか?」


「……」




 なるほど、知られたいわけでもないことをどうして明かしたのかと思ったが、こちらに話しやすくさせるためか。




(んー)




 先ほどの金髪少女であれば情報収集のための一手という感じなのだろうと思えるが、この少年はただただ聞きたいだけという感じがする。あるいは秘密を共有したいとかそんな程度のことを考えていそうな。


 どうしようか、と考える。自分のクラスを明かすことはできる。犯罪行為に手を染めるタイプのクラスでもないし、むしろ、普通なら犯罪から縁遠そうと信用を得るようなクラスだ。


 けれど、そのクラスは自分の今の境遇に密接に関わっていて……。




「まぁ、いいか」




 そう判断することにした。こちらも向こうの秘密を守るつもり、向こうもこちらのクラスを広めないのであれば問題は起きないだろうと、




「俺のクラスは『ギルド職員系』の中級、『クラス:ギルド中級職員』『レベル:13』だ」

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