003、

 ガルディアと呼ばれるこの大陸はギルドの権威が強いと言われている。実際の統治機構は王政なので他の大陸のギルドよりも権威が強いという程度の意味だが。


 では、なぜ、この大陸ではギルドの権威が強いのかというと、五百年前――今は無き帝国、その初代皇帝が行った公共事業がギルドとの協働であったことに端を発している。その公共事業が『魔物追放令』である。







「まぁ、大昔に実施された事業だが、それに則って世界でこの大陸だけが地上から魔物の脅威を一掃した」

「名前は聞いたことがあるけど、何したの?」

「細かく何をしたかはとてもじゃないが言い切れない。何を目的にしていたかでいうと、地上の環境に魔物が組み込まれないようにした、って感じだな」


 このあたりは、ギルドの仕事で、子供や成り立て冒険者に説明することが多いので慣れている。


「例えば、這蜥蜴という魔物は地上で繁殖した場合、小型肉食獣の生態系内の地位を奪って増えることになる」

「……ん? それって、何がいるか、が変わるだけなんじゃ?」

「たしかに、それだけを抜き取れば、その土地にいた狐が這蜥蜴に変わるだけだ」


 だけど、と続ける。


「魔物をダンジョン外で倒すと、その場に澱みを作る。澱みが貯まるとより上位のの魔物を生成したり呼び寄せたりするから、生態系がどんどん魔物に置き換わっていき、しかも、普通の生態系なら虎や狼や熊で止まるところが、大蛇や巨人や場合によっては龍が現れるといえばその脅威が想像つくか?」


 二人は絶句した。


「まぁ、其処まではかなりの時間がかかるから、この大陸なら対処はできる」


 安心させるように言うが、そこで二人には疑問が生じたらしい。


「……じゃあ、なんで猪の魔物が?」


 猪の魔物、先程死体の外観的な特徴を聞いたところ、レッドボアだろうという結論は出た。毛皮が残っているらしいので、後で実物を確認したいところだ。


「いくつかの可能性があるが、最も考えられるのはダンジョンから<こぼれ>てきた、って可能性だな」


 ダンジョンとは大陸最先端の学術研究機関である<塔>によれば『混沌と秩序の境界面』のようなものらしい。あるいは『力がモノに変わる祭壇』とも。世界を巡っている流動的な力を取り込み、何らかの物質にして出力するものだ、という。


「こぼれって、ダンジョン災害の一つ?」


 ニコが質問を入れてきた。


「そう、ダンジョンの内圧がそこそこに達するとダンジョンの中身が外に出てくることがある――逆に言えばそこに達さないように管理すれば安全なんだが、それはともかく――それでダンジョンから魔物なりが出てくるのがこぼれだ」

「一匹、他にいない?」


 心配しているのだろうか。実際に直面して命の危機を味わったのだから当然か。


「一匹だと思う。<あふれ>の場合はそれどころじゃないからな」


 あふれの場合は文字通りにダンジョンから中身があふれる。多くの例では一階層がまるまる外に出てくるとのことなので、数百匹以上が急に生じることで大きな被害がでるし、こぼれの場合とはちがい、生殖能力を持つ個体が交じるので生態系に大きな被害がでることもあるのだ。

 話を戻して、


「魔物を解体したって話だが」

「……澱みが溜まってるかどうかって話か」

「一匹程度なら大丈夫だろうが、澱みを貯めないためには『狩人系』のクラススキルが」

「あ」

「うん?」

「それならオーリは大丈夫」


 ニコが言う。


「オーリは狩人」


 なんと、孤児でありながらクラス持ちらしい。

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