最終話「ハーレム勇者潰し」


村から出ると誰もいないのを確認し、直ぐ様ヘルメットを全部下す。


流石にきつい、「はぁはぁ……」と息遣いも荒くなり始めた、


当然だ、この姿は元はか弱い女であるミラージュの姿なのだ、


筋肉も全くない、よく両手でここまで運べたくらいだ。


ここまで来たのならもう誰にもばれる事はないだろう、


体力なら有り余る程持っているローガンに変化した方が持ち運びは楽である。




【ドラゴン+ゾンビ】




ドラゴンゾンビの姿となり、束になったヘルメットを持って空を飛ぶ、


ローガンが止まってる場所までは楽々と着く事が出来た。




「おーい! ローガン!」


「マスター! お疲れ様です」


「ゾンビ達も全員いるようだな」




ヘルメット8個を被ったゾンビの他に14体をローガンの傍で待たせていた、


つまるところ合計22体のゾンビをあの墓から死体として掘り出した事になる。


ばあさんが言っていた戦死した男というキーワードで案内された墓だったが、


どうやら22人全員が男な事から本当に戦死した人間があそこに埋められていたのだと言えるだろう。




「いくら仲間が少ないとは言え、22体はちょっと多すぎたかもな」


「確かにそうですね……それにしても我が戻った頃にはゾンビ達がこの場所で待っていましたが、意外にも仲間にするの早かったですね」


「そう言えばお前達はゾンビの体質を知っていないんだっけな、何も人間を噛む必要はないんだ、ゾンビはひっ掻くだけでも仲間にできる体質を持っている」


「なるほど! それは効率が良い」


「まあな、ところでどうだ? おっさん達の事は見に行ってくれたか?」


「あのゾンビ達ですね、はい、最初だけですがちゃんと無事にやっていましたよ」


「そうか、割と時間は経ったから早めに帰った方がいいな、ヘルメットは全部お前の背中に乗っけさせてもらうぞ、それからゾンビ22人もお前の背中の上に乗せて連れてってくれ」


「了解しました」




ローガンと共に空を飛び、おっさん達が待つ荒野にへと帰る、


本当ならローガンには逐一あいつらの事を心配して見に行って欲しかったのだが、


やはり根の部分は変わらず王者のプライドが残っている、


俺以外の誰もまだ仲間という認識がローガンにはないのだろう。


ローガンのプライドがチームワークの妨げとならなければいいが、


絶対忠誠といいつつも、ちゃんとした個々の意志をこの俺が読み取り操っていかなければならない。




空を飛ぶこと数分、


あっという間におっさん達の姿が目に見えるも少し様子がおかしい、


その数は明らかに増えていた、剣を構えた男が一人、そして残りは……全員女か。


恐らくあれは人間か、愚か者め……この強靭無敵の吾輩らゾンビ達に立ち向かうという事が、いかに愚行で無礼な事か、その身にしっかりと刻み込んでやろう。


距離がおよそ100mに差し迫った時だった、


ゾンビが二体が頭を真っ二つに斬られ、死体になっている姿が見える、


そして人間と面と向かってい戦っているのはおっさんである、


手に持つのはナイフと両刃剣、これじゃあゾンビ達が勝てないのも無理はないだろう。




飛行の最中、剣を持っている男に向かって、爪を立て、


通りすぎると同時に腕を体に向かって振り下ろす。


しかし、鋭い竜爪は人間の剣で薙ぎ払われ、その軌道を活かし、


遠心力を付けた男の回し斬りは剣の刃が俺の脇腹にへと向かう。


まずい、このままでは間違いなく身体は真っ二つ……、


しかし透かさずおっさんがその間合いに入り、俺の代わりに身体が真っ二つとなる。




「っな……」


「っちぇ~外したか」


「おっさん!!!」




斬られたのはおっさんの胸板である、両腕さえも無くなっていたためその場から動く事はできない。




「マスター! 私ならだいじょ……」




おっさんが喋ると透かさず剣が振り下ろされる音が辺り一体に高鳴る、


おっさんの首が宙に吹き飛び、何もない荒野にへと転がっていく。




「おっさ……」


「あ~あれで死んだかな、しっかしゾンビ族って弱い癖に無敵だから面倒だよな~」


「そうよね~リュウジ、さっさとこいつら片付けましょ、くっさい臭いが今にも服に移りそうだわ」


「私は魔法で援護しますねっ!」


「防御なら私に任せろリュウジ」


「へいへい、分かりました分かりました、さっさとこんな面倒くさい仕事終わらせようぜ」




悲嘆しそうになる中、言葉を遮るようにならず者達は余裕の会話を見せる、


もう勝った気でいるのだろうか……だが少し、ほんの少しだけこいつらを見ていたら自分の方が人間に近い存在なんじゃないかと思えてくる。




「不愉快……実に不愉快だお前達」


「は?」




素っ頓狂な声を上げたのはゾンビの首を一刀両断できるに等しい両刃剣を持った男だ。




「何々っ? ゾンビにも不愉快って感じる事あんの?」


「貴様は吾輩らの事を何だと思っている……」


「腐ったゾンビだろうよ、ていうかてめえみたいな下等生物がこの伝説の剣豪である勇者リュウジ様に気安く話しかけてんじゃねえ」


「貴様あああああああああ!!!」


「ローガンよ、今は堪えてくれ」




ローガンを制すと、ドラゴンの爪を立てて身構える、


伝説の剣豪というのもあながちハッタリという訳ではないだろう、


この最強竜であるローガンの爪を剣で薙ぎ払ったのだ。


そしてこいつから不愉快さを感じたのは仲間を殺した以外に、


同族嫌悪という文字が真っ先に思い浮かんだ。


姿形は違うが、ハーレムでイケメンで伝説と呼ばれる程の剣の実力を持っている勇者か、全く持ってむかつく要素しかないのが乙だな、これこそまさに俺がセカンドライフを歩みたかった理想の姿なのだから。


しかし今となってはゾンビになったのも中々悪くは無い、こんな素晴らしい仲間達ができたのだ。




「ここから先は俺とこいつとサシで戦わせてくれ、手出しは無用だ」




少し間が空いた、ローガンも一撃目が剣で薙ぎ払われるのを見て危険な相手なのだと察したのだろう。


しかし、心配は無用だ、とても余裕とは言えないが苦肉の策なら持ち合わせている、マスターとしての意地だと思ってお前達は見ていてくれ。




「「「「「マスター……駄目です……」」」」




ボロボロになったゾンビ達の声が背後で沸き上がるが、今は感傷に浸っている場合ではない。


果たして上手くいくだろうか……正当な手段で勝てるのならば苦労する事はない。




「分かりましたマスター、くれぐれもお気を付けを……」


「すまないなローガン、代わりにあの女達3人全員を倒してくれるか? 今のお前はゾンビだ、爪と頭をよく使え」


「!? なるほど……かしこまりました」




身構える吾輩の面を見てニヤリと笑い、余裕の表情を見せる勇者だったが、


剣の先端を地につけるくらいに奴は隙だらけだ。


馬鹿め、と俺は内心ニヤリと笑い早速スキルを発動する。




「そのマイペースさと共に極熱の炎風呂で温まるんだな!」




火炎放射を口から限界まで出し切り、


勇者は地に降ろしていた剣ですぐさまその炎を真っ二つに立ち斬る。


だが、その時にはもう遅い、敏捷2000の速度は伊達ではないのだ、


しかしその速度に適応する閃光の如く速さで両刃剣で背後に繰り出された、


計10本の竜爪を跳ね返す、その際右手の五本の竜爪が欠けた。




「中々力強い攻撃だ、こんな亜種族がいるとは正直驚きだったがな、俺はお前のような異世界の化け物を何匹も倒してきたんだ、そして今度はお前もぶっ殺してやる」


「異世界だと……?」


「ああそうさ、俺はゲーマーでな、何度も化け物狩りに挑戦して戦略を練って敵を倒してきたんだ、お前達のようなバカの一つ覚えな攻撃しかしてこない奴は人間様にやられるべきなんだ」




ゲーマーという言葉を異世界人が使うとは思ってもみなかった、否、


リュウジという日本人のような名にこの喋り方、ひょっとしてこいつも転生してここに来たのだというのか。




「なあ、一ついいか?」


「何だバカ」


「そのバカというのは辞めなさい……それよりもだね、君ひょっとして日本という国から来たりしないか?」


「!? 何でそれをっ!!!」




やはりだ……この動揺、間違いなくこいつは日本から来た異世界勇者、


吾輩がなりたかった姿である存在がこいつの役目になった、どうりで嫌悪感が生まれる訳である。




「俺も日本から来てな、転生してここにきた、お前とは違って転生ゾンビだがな」


「転生してきただあ? ふざけるな! 俺以外にここに来られる筈はないんだ! 俺は選ばれし勇者なんだぞ!!!」




相当痛々しい奴である、だがここで丸め込むしか手はない、流石に人間どうぞく殺しは吾輩もしたくはないのでな……。




「いいか? お互い異世界人の身として手を組もうじゃないか、同族で殺し合うのはお前も嫌だろ?」


「えーい黙れ! もし選ばれし人間は俺だけなんだ! お前なんかの口車に乗って溜まるか! ここで死にやがれ!」




交渉決裂、バカの一つ覚えみたいな攻撃とは言ったものの、


真正面から剣を持って近寄ってくるこいつの方がよっぽどバカの一つ覚えだ。


ただよっぽど自信があるとも思えたので油断はできなかった、


ただ納得できるのはこいつも俺と同じ人間だという事だ、だからこそここまで強くなれたのだろう。


まずは左手の竜爪が欠けていない五本を奴の空いた顔面目掛けて振り回す、


だがしかし、そう簡単にいくことはなく奴の剣によって薙ぎ払われる。




「お前本当に人間か! 低能にも程があるぞ!」


「低能は貴様だ! まだ左手が残っている!」




欠けたとは言え竜爪は使えるのだ、彼の足に向かい突き刺そうとしたが、


その攻撃も勇者が剣の角度を変える事によって受け止められてしまう。




「安心しろ、今てめえの両方の腕をぶった切ってやる」




勇者は脅威の力で体制を戻し、左手首を断ち切った。




「どんなもんだ、お前とは積み重ね(キャリア)がちげえんだよ!」




剣の位置は頭部より真上、転生勇者よ、悪いがこの状況は全く吾輩にとって不利ではない。


隙を探せばいくらでも見つける事ができた、胸部から足まで全てがそうだ、勝負ありである。


右手に握る竜爪を力一杯勇者の足首に投げつけ、それが勇者に刺さる。




―――ゾンビの爪が刺さればどうなるか、説明するまでもないだろう。




「うぅ……ぐはっ……」




当然それはゾンビ化、更に図体が小さい人間はローガンの時と違って一瞬である。




「いやだ、いやだよぉ……何だよこれ、毒か? 毒爪か? 苦しくて息が……うぅ……殺さないでよぉ……お願いだよぉ……ママァ!!!」


「生憎だがあまりにも物分かりが悪いのでな、だが心配するな、この世界でゾンビになるという事は、それすなわち幸福、何故ならこれからはゾンビの時代だからだ!」


「いやだあああああああああああ!!!」




ゾンビ化成功、残念ながら人間がゾンビに勝てる点と言えば知能だけだ、


それをゾンビが身に付けたのだから、いくらこの勇者が実績を重ねようとも吾輩が勝つのは必然なのである。


ローガンの様子を見るとあっちもあっちで決着がついていた、


というより勝負が終わったのは勇者が剣を地につけている時からだ、


ローガンの一撃で彼女達はゾンビ化したのである。


あの勇者バカはそれにすら気付かず余裕をぶっこいていたのだ、救いのない奴だがこれからは仲間としてやっていく分可愛がってやるか。




「「「「主、我が主よ! お名前を聞かせて頂けませんか!」」」」




戦いが終わると共に四人のならず者ゾンビが吾輩に名を問うてくる、


そろそろ名前を付けてもいい頃合いだろう、このままゾンビマスターで押し通していたのならば、


そっちが通り名になりかねない。


そうだな、ドラゴンの力を借りて伝説の剣豪を倒したのだ、


ならば今の状態こそ伝説に等しいと言えるだろう。




「吾輩はドラゴンゾンビ……またの名をドラゾンビだ、お前達四人、いや、ここにいる全員に厳命をする、ゾンビの王国、否、ゾンビの世界を築き上げるためにその命を捧げよ!!!」

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転生ゾンビのセカンドライフ from NEET コルフーニャ @dorazombi1998

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