第7話「かじ屋を襲う」




警戒も何もない村落に難なく入れた俺は、


早速防具屋を探そうと町を見渡す。


戦闘に応じてドラゴンにへと姿を変える事が出来るので、


特に防具以外の物は必要なく、それよりももっと重要な事は資金集めである。




さて、どうしたものだろう、もう少し人口が集中している都市ならば、


この身体を利用してある程度の資金を稼ぐことはできた、


しかし生憎この村にいるのはじじいとばばあばかりだ。


それに建物を見た感じどこもかしこも古びた物ばかりで、


本当に良い武器や防具が揃っているのかが懐疑的になってくる。




場所を変えるべきかとも思ったが、ローガンは空を徘徊しており、


これじゃあヘルメットをいくつ買えど持ち歩く事は出来ない。


いくら俺がドラゴン化した処で、ステータスは上がっても大きさはゾンビサイズのままなのである。


とにかく話しかけない事には何も始まらんだろう、誰でもいいが今は若い娘の恰好をしているのだ、ばばあよりもここはじじいの方が喜ぶだろう。


谷間を露骨に二の腕で盛り上げながら、徐々にじいさんの元に近づいていく。




「あのぉ~すみません~」


「あ? なんじゃって?」


「いや、ですからすみません」


「あ? もう一度言ってくれ」




駄目だ……人間だった頃の長年の勘が働いていたが、


このじいさんはいくら話しても時間の無駄、おまけに話しだすと人一倍話す可能性があるため、ここは目的を変えてばあさんに話しかけてみる。




「あの、おばあちゃん」




じいさんの時とは違い甘い声では無い、ばあさんはチャラチャラした娘が嫌いな筈だ、


いくら異世界とは言え、人であるならば人間の真理は万国共通、異世界共通であろう。




「んー? なんじゃね?」


「実はここら辺で鍛冶屋が無いかを探していましてね」


「ああ、それなら向こうにある建物がそうじゃよ、今日はまだ営業している筈だから行っておいで」


「ありがとうございます!」




上手くいったようだ、あのじいさんとは違いちゃんと耳も正常らしい、


だとするならば後何個かついでに質問をする事にしよう。




「それとですね、実は吾……私のおじいちゃんがここで育って死んじゃって、お墓に埋められているって聞いてるんですよ、この町の筈なんですけどお墓の場所とかは知っていますかね?」


「ん? ていう事はそれは戦死したって事でいいのかね?」


「そうです」


「そうか、ならあっちに行きなさい、一方通行に行けばそのうち見えてくるじゃろう」


「本当にありがとうございます!」




ばあさんが指さした方向は南東である道形になっている先が何も見えない通りだ、


その通りをミラージュの姿で歩くも、誰一人こちらを見る事は無い。


わざわざ露出の多い服をミラージュに選んでもらったものの、


それもその筈、外にいるのはじいさんとばあさん以外には野良犬しかいなかったのである。


人が少ないのは資金集めだけの目的なら却って好都合だろう、


人間の姿ではあるものの鋭い歯を立て、一人で誰もいない墓にへと向かった。




扉を開けた先は鍛冶屋だ、真っ赤に染まった鉄を熱した後に金槌を打ち付けているのは、


意外にも若男である、老人しか見てこなかったために万が一を備えていたのだが、


これならばその必要も無さそうだ。




「ようこそディードストアへ! 旅の方ですか?」


「ええ、まあそんな処ですわね」




女性言葉が意外にも難しい、確かミラージュはこんな言葉を使っていなかった筈だ、


頑張って元に戻さなくては。




「ですよね、とはいったもののここに住んでる若者なんて僕と妹しかいないんですけど」


「そうなんですの、オホホホホ」


「それで、どんな武器をお求めですか? それとも防具ですか?」




彼の頭上に並ぶ武器や防具は中々に磨かれていて、


部屋の中にある電灯の光線をそれぞれの武器が跳ね返し、部屋中は実に眩しい。


最初入ったときは古びた建物だったため、どんなボロイ武器が出てくるのかと心配したが、


予想を遥かに超える程の良質そうなヘルメットがずらりと棚の上には並べられている。




「もしかしてヘルメットですか?」


「はい、私ここのヘルメットが素晴らしい物だと友達から聞いていてですね、でも十分なお金を持ってなくて……」


「そうだったんですね、少し値引きしましょうか?」


「ええ……でも本当に足りなくて」




近づいた先はヘルメットでは無く、若者の元にだった。


身長差は20cm程差があったために顔の先には彼の胸元が見える、


俺は若男の背中に両手で手を回し、カウンター越しに彼のお腹と胸を付着させる、


これも全てはゾンビ達の身の安全のためだ。




「な……なにを……」




どうやらこの反応は童貞の香りがプンプンする、


この世界で俺程童貞という称号を持って卑屈になったものはいないだろう、


そしてその卑屈に囚われた魔法使いが女体化した時は何に化けるか、それは決まった事だ。




「あらぁ~あなたよく見ると凄い良い男……体つきも~お顔も凛々しいですね……」




まずはボディータッチだ、両手で彼の頬を触り、目線をお互いに合わせるようにする、


聞かなくて分かる、彼の心臓の鼓動は今尋常じゃなく激しい爆発音を鳴らしているだろう。


そして次に彼の右手を握り持ち上げる、


彼は無言で眼孔をあたふたと左右に動かしていたが、


抵抗は一切してこない。


顔の方は本当に整ってはいたが、


こんなじじばばばかりが住む村落に住んでいたらそりゃあ彼女の一人も出来ないだろう。


そしてその中指と薬指を両方の二の腕で大きくした谷間の中に挿入する。




「あ……ああ……」


「静かにして頂戴……私今酔っているの」




当然嘘である、しかし鍛冶屋の若男は期待を膨らませたかのように頬を赤くさせていた、


彼のハートは間違いなく俺の虜になっているだろう。




「私本当に今お金持ってないの……だからただでお譲りして頂けないかしら?」


「っな……」


「あなたさえ良ければこの続きも……」


「だ、駄目です!!!」




谷間に挟まれた指を抜き取り、「はぁはぁ……」と荒い息遣いをしていた、


これは驚愕以外の言葉が見つからない、一体どこで間違ったのか。


もし俺が彼の立場ならこの店の武器と防具半分は譲ってやるのに、


なんだったらこの店にあるヘルメット15個全てを俺にくれれば、


俺よりも早くにこの男を童貞卒業に導く事もできた、一方の俺は処女を卒業する訳だが。


交渉決裂となったならば仕方がない、最終手段を取るしか選択の余地は無いだろう。




「あ~ん、連れな~い~」




ドンドン、と二回薄く古びた壁を叩く、


しばらく間が空いた後に、扉を突き破り大量のゾンビが押し寄せてくる。


その数8体、いくら武器を持っていたとしても彼らから逃れられる方法は無いだろう。




「ひいいいいいっ!!!」




良い反応だ、求めていたリアクションをしてくれて爽快な気分になる、


しかしここは俺も一応驚いたような演技をしなければならないのだ、


とにかくカウンターにいる鍛冶屋の若男と横に並び、怖がる演技をする。




「な、何ですかこれは!?」


「いや、僕にも分からないんだ……参ったな、僕戦った事ないし……あわわ……」




8人のゾンビ達が真っ先に向かった場所は俺達の方では無い、


ヘルメットの元にだ、ゾンビ達は計画通りに次々と顔全体を覆うヘルメットを頭に被る。


このままこいつらにヘルメットを持たせて逃亡させるという手もあったが、


それではこの俺がヘルメット欲しさに奪ったとばれかねない、


それにゾンビの肩を持つという事は本来の姿であるゾンビマスターの俺の名にも傷がつくのだ。


そこで一つの提案を鍛冶屋の若男に持ち掛けることにする。




「私こう見えて冒険者なんです、もしこのゾンビ達全員を私が倒したらこの店にあるヘルメット全て譲ってもらえませんか?」


「えっ!? 全部?」


「嫌なら大丈夫です、私はここの壁を破って一人で逃げますから」


「そ、それだけは……ここにある武器全部が僕の傑作なんだよ」


「じゃあどうします、フフフ」




せせら笑いが思わず声に出てしまう、いたずら好きの少女というのは以外と俺のタイプだ、


段々とこの体を扱うのにも慣れてきたら後で鏡をじっくりと見ながら堪能してみるか。




「分かりました! ぜ、全部あなたにヘルメットを差し上げます、ですからこのゾンビ達を……」


「まいどありっ……」




まずは一体目、地面を蹴り上げ、カウンターを飛び越えてゾンビの腹に蹴りを入れる、


割と良い音がなったため、演技とばれないだろう、


予めゾンビ達にはちょっとの攻撃で倒れこむよう話はしてある。


本来であればこの程度の攻撃如きでゾンビがやられる事は無いが、


事はなるべく早く進めたい。




「覚悟しなさい!」




二体目は回し蹴りでヘルメットごとゾンビを吹っ飛ばし、


後ろに溜まっていた三体のゾンビ共も、吹っ飛んだゾンビとぶつかり、壁に当たっては倒れこむ。


彼らが起き上がる事はなかった。




「つ……強い!」


「後三体か、どうする? まだやる訳?」


「ひいいいいいいいっ!!!」




ゾンビ三体はヘルメットを被ったまま壊れた扉から部屋を出ていく、


そして残りの五体も続くように起きてはヘルメットを被りながら扉から部屋を出ていく。




「行っちゃいましたね……」


「まあいいですわ、元々そんな必要じゃなかったし、7個で許してあげるわ」


「い、いいんですか!? 命を救ってくださり本当に、本当にありがとうございます!」




お礼を言われる筋合いは無い、


ゾンビを連れて予め計画的襲うように仕込んでいたの俺なのだから。


俺はもう身も心も完全にゾンビなのだ、こいつの命が消え去ろうと恐らく何も思わないであろう、


だがしかし……俺が命を奪わずに襲ったのは人間だった頃の自分と、


今のゾンビである自分を照らし合わせた時にどういった行動を取るかを考えての行為だった。


ひょっとすると俺は人間の時の感情を失いたくなかったのかもしれない、


だからあんな非効率的な手段を取ったのだろう、


この選択が吉と出るか凶と出るかは今後の冒険にどんな影響をもたらすやら。




鍛冶屋は束になった縄を持ってくると思うと、ヘルメットに一つずつ吊るし、


縄に吊るされた7個のヘルメットを渡されて、この鍛冶屋を出ていく。




「あの! 今日は本当にありがとうございました!」


「次来るときは武器を安くしてくれよ」


「勿論です!!!」




最後の最後で鍛冶屋の若男の声が扉の方まで聞こえてくる、


外にはゾンビ達の姿はとっくに消え、俺もゾンビ達に続いてヘルメットを持ち、


ローガンがいる場所にまで戻ることにした。

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