第6話「ドラゴン+ゾンビ=ドラゴンゾンビ」

ゾンビAから順番に図体の大きいローガンまで外に出ると、


辺り一面に見えるのは何も無い荒野である。


未だに俺の身体は女体化されているが、あまりにも華奢な体と、


豊満な胸がバランスに合っておらず、歩く度に上下に跳ねる事が歩行の妨げとなっていた。


そろそろ元の姿に戻りたかったが、せっかくなのでここでドラゴンの力を借りる事にしよう。




【ドラゴン+ゾンビ】




ドラゴンの力を得た身体は人外とも言える程の鋭利で長い爪が生え、


尻には紅蓮の尻尾、更には背中から巨大な紅蓮の翼が生える。


歯は犬のように上部二本だけが鋭くなり、頭からは二本の大きな角が生える。


姿を変えてからは無性に血が騒ぎだす、これがドラゴンの感情なのかと、


それは初めて味わうような絶対無敵の王者的優越だった。


しかし感情が爆発して味方を攻撃するまでの暴走は起きなかった、


このプラス化は感情までもが共感するから扱いには注意が必要だ。




「おっさん、ステータスを確認させてくれ」


「っは! かしこまりました!」




おっさんは鞄からもう一度小型の機械を取り出し、上部を親指に付着させデータが書きだされる。




「どうぞ!」




おっさんに渡された小型機械を受け取り、画面を覘く。






≪ステータス≫


体力  1500600


攻撃力 900000


防御力 300000


敏捷  2000


耐久力 65244






≪ユニークスキル≫


『不死身』 


『ゾンビ化』


『プラス化』


『覇王砲』




≪ノーマルスキル≫


『火炎強耐』


『火炎放射』






ステータスの数値は増えているだけではなく、スキルの数も増えていた。


これが最強であるドラゴンの能力、更にこれがゾンビ特有スキルのおかげで、


頭部さえ守れば無敵なのだから、もはやこの世で俺に勝てる相手はいない。


そのためにもまずはヘルメットが必要だ、前々から思っていたが顔全体を覆うヘルメットをさえあれば、身体を木端微塵にしない限りは向かうところ敵無しなのである。




「おっさんよ、吾輩は物資を調達しに近くの街にまで買い物に出かけてくる、留守中はお前にリーダーになってもらうぞ」


「っは! 了解であります」


「これは返す、それとローガンよ、吾輩についてこい」


「了解であります……」


「えっ!? そのドラゴン連れて行っちゃうんですか!?」




おっさんに小型の機械を返すと、早速弱音を吐いたゾンビ達が戸惑った顔でいた。


全くこいつらはゾンビとしての自覚が無いのか、心配性にも程がある。




「留守だけだ、心配するな、それにもし貴様達を襲った勇者がいたとしても頭部さえ守れば無敵なのだ、武器はさっき見たが全員持っていただろう」


「っは、そうでしたね……弱音を吐いた事お許し下さい……」


「直ぐに戻る、手土産として死体を何体かゾンビに変えて吾輩らの仲間にしてやるわ」


「楽しみにしております、ゾンビCとゾンビFに変わる優秀な人材がまた見つかるといいですね」




ミラージュが最後にドラゴンゾンビと化した俺の身体を触れ、


決して恐れる事無く彼女はこの鋭い瞳を見つめてくる。


華奢な女の子と言えど、彼女もまた吾輩の立派な下部なのである、


吾輩は期待を込めて彼女にもここで留守を任せる事にした、少し離れるだけである。




「ではお前達、吾輩はローガンと共に空を飛び街がないか巡回してくる、人数分のヘルメットはちゃんと持ってくるから安心して待ってくれ、時折ローガンにはここを巡回させるが、勿論お前達だけでも安心できると吾輩は信じておる」


「マスターこそどうかご無事で! 我々の心配などしないで下さい、ミジンコ同等の価値であります」


「そうはいかん、貴様達は吾輩の立派な下部達だ、もうあのような悲劇を繰り返してはならん」


「マスター……」


「では行ってくる、少しの間だ、待っていてくれ」




「「「「「「「「「「「「「っは!!!」」」」」」」」」」」」」




計13人の返事を聞き受けた後、ローガンと共に空の旅にへと出かける。


どこか心細かったか奴らなら大丈夫だろう、


ここで何者かにやられるようならそれこそゾンビというものの価値が無に等しくなるというものだ。




「ローガン、吾輩は右から見るが貴様は左を任せても良いか」


「いえマスター、南西に小さい町を発見しました、この距離でも十分見えます」


「何っ!? すまんな、初めて飛ぶものだからあまり慣れて無くて」


「いえ、こっちです、ゆっくりでいいので我に付いてきて付いてきて下さい」


「了解した」




ローガンはここからでも遠方にある小さい町がはっきりと見えるようだ、


一方の俺はというと目がぼんやりしていて、遠方にあるものは見えそうで見えないでいる。


どうやら身体があまりにもかけ離れたドラゴンを吸収したため、


この人外的な身体を適応するまでには時間がかかるようだ。


それにしても外の空気は気持ちが良かった、顔に勢いよく風が当たるも、


ドラゴン特有の頑丈な肌で全く何とも感じない。


一方の目の方も特に何も感じる事は無い、人間と本来の出来が違うのだろう、


そして徐々に薄ぼけた視界も元に戻り始め、ローガンの向かう町がくっきりと視界に映る。




「ここです、我はばれない方がいいと思うのでここらで少し散歩に行った方がいいかと……」


「ああそうだな、道案内ご苦労だった、たまにでいいから残りのゾンビ達がいる場所も巡回を頼めないか? 本音を言えばあいつらだけでは少し不安でな……」


「勿論であります、では早速見て参ります」


「ご苦労だ、空の散歩も程程にしておけよ」


「了解であります」




ローガンパタパタとその大きい翼を広げ、


おっさん達がいるあの何もない荒野にへと去っていく。


今度は俺も町のすぐ近くまで翼を徐々に下し、地に足を付ける。


さて、吾輩がやるべき事はただ一つだ、


まずは人間に化けなければならない、一番この町でやり過ごせそうな下部は……というよりも恰好的にまだ俺の服は女装のままである、ミラージュしか選択肢はない。




【ヒューマン+ゾンビ】




豊満な胸が戻り始める、おかえりおっぱい。


口調も変えた方がいいだろう、吾輩なんていう女がいたら俺は絶対に彼女にしたくはない。




「あ、あっ!テステス、私~私ビッチです~」




こんなものだろうか、声は完全にミラージュそのものだ。


後はどうやってこの町まで侵入するかだが、見る限り特に見張りというものはいなかった。


このまま入っていいのだろうか、しかし最悪な事に手ぶらである、


荷物は全部ローガンの背中に乗せようと思っていたため何も持ってきていなかった。


これでは旅人だとごまかす事も出来ないだろう、


おまけにローガンもローガンで散歩だと言っていたがいつ戻るのだろうか、


口笛でも吹いて戻ってくるならまだしも奴にそんな耳が良いとは思えない、


携帯も持っていないドラゴンだ、きっと自分のタイミングで戻れば良いと思っているのだろう。


とにかく町に向かう事にしよう、この豊満な胸という重りを抱えながら、数キロ先の町まで。




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