第5話「最強スキル会得、プラス化」


この先生き残るために必要不可欠な知識を兼ね備えたゾンビFは、


ローガン・ラギアの大形な尻尾によって、身体どころか頭部までも粉々に潰されていた。


一方のゾンビCはというと、口から放たれた猛火に火だるまにされ、


結局その火は消沈する事なく灰と化し、微動だに体は動かず地面に倒れ込んでいた。


ゾンビ達が悲観に浸っている中、場違いなゾンビが一匹、


俺の目前にまん丸とした優しい目つきで質問を投げかけてくる。




「マスター……? どうかしたのですか?」


「いやーちょっとな……考えさせてくれ」




なんてこった、これならまだこのドラゴンが仲間にならずに死んだ方がマシだ。


どうやって下部達にこの凶暴なドラゴンが今更ゾンビ化した事を伝えればいいか、


もしそれを説明した処でゾンビ達は納得するだろうか、答えはノーに決まっている……。




「まあ気にいても仕方ないか……ドラゴンゾンビよ、まずは貴様の名から先に教えるのだ」


「っは!!! 我が名はローガン・ラギア、ローガンとでも何でも及び下さい、我が身はいついかなる時でもマスターのもの、煮るなり焼くなりされようとも我はマスターに扱われるなら本望です!」


「そうか……ではローガン、貴様は我に何を命じられても文句は言わんという事でいいな?」


「っは!!! 勿論でございます、我が主の頼みであるならば何なりと……」


「ならばごめんなさい、しようか」


「っな!? す、すみません、マスターの口からそのような言葉が出るとは思わなかったもので……しかし謝罪ですか……」


「そうだ、お前のせいで二体のゾンビがこの世からいなくなったんだぞ」


「な、なるほど……それは申し訳ない事を」


「吾輩にではない! あそこにいるゾンビ達にだ!」




下部が群れになっている方向をドラゴンゾンビにも分かるように指さす。


こちらも仲間にした身として中々に申し訳ない気持ちはある、


何せ最強のドラゴンと呼ばれているローガン・ラギア様をあんな下級戦士共相手に謝らせるのだから。


だがしかしここはけじめをはっきりと付けなければならない、


もしそれでも駄目であれば俺とローガンだけでも彼らの元から去ろう、


彼らに与えたダメージは想像以上にでかいはずだ。




「そうだ、ごめんなさい、できるな?」


「は……はあ……」


「いいか? 45度だ、45度体を曲げてちゃんと謝れよ」


「了解しました……」




どうやらあまり本意ではないようだ、


こんな最強クラスと呼ばれるドラゴンが頭を下げて謝るなんて、


世界中どこを探してもここでしか行われていない事だろう。


ローガンは自分の足で、ドスンッドスンッ!と地響きを鳴らしながら歩き近づいていく、


それに勘付いたゾンビ達は近づいてくるドラゴンゾンビに対し、


身構えながら懐から短剣及びナイフを取り出す。




「あ、あのですね、ごめんなさいでした……もう二度とあなた達の仲間は殺しません」




ゾンビ達の群れに近づいたドラゴンゾンビは見事に45度のお辞儀を作り上げ、


ゾンビ達に頭を下げる。


それはあまりにも完璧だった、もし面接に俺とこのドラゴンゾンビだけが来ていたのなら、


間違いなく面接官はドラゴンゾンビの方を採用するだろう、そもそも俺自体45度のおじぎは作れないのだ、作ろうと思っても60度のおじぎか30度のお辞儀しか作れない。




「な、何でドラゴンが喋って!?」


「そのドラゴンゾンビはもう吾輩らの仲間になった、頼む! 其奴を許してはくれんか? 確かに前までは荒くれたドラゴンだったが、今はもう綺麗さっぱり吾輩らと同じゾンビなのだ」


「し、しかしですね……仲間が二人も……」


「分かっておる、この通りだ! 許してくれえ!!!」




ドラゴンゾンビのおじぎの後は、今度は俺がおじぎを披露してみせる、


それもドラゴンゾンビの時とは違い90度のお辞儀だ。


少し膝を曲げるのがコツではあるが、


これは本当にすまんかった、を意志表示する最強のお辞儀なのである。




「あ、頭をお下げ下さい!!! 大丈夫ですんで! 我々の命はそもそもマスターに捧げているのです! ですからマスターがそう言うのであれば仕方のない事です、だよな、お前ら!」


「も、勿論でございます! 私達に異論はありません」




おっさんの言葉から連鎖するようにゾンビ共は首をカクンカクンと首を縦に振る、


もう少し粘られると思い、必殺の土下座も隠し持っていたが案外ちょろいもんである。


ついでにこれを俺に指導させたのは昔働いていたクソパチンコ店からの教えだ、


あの時はクソみたいな事をいつまでもやらせやがると愚痴ってはいたが、


今思うとあの時の教えが今日になって役に立ったため感謝をしたいもんだ。




「ッフ、良い下部を持ったものだ、良かったなドラゴンゾンビよ」


「っは!!! 我もこいつらと同じであなたに命を捧げる身分である故、マスターの仲間になれて光栄であります!」


「こいつらだと……」




腹を立てたのかボソっと一体のゾンビが小声で呟く、


これは今すぐにでも内部争いが起きそうな予感だ、


今後チームに悪い影響をもたらさなければいいのだが……。




「まあこれで晴れていざこざは無くなったって事で良いよな、って何だこれは!?」




ドラゴンゾンビの謝罪をする事だけに専念していたため、


気付くのに遅れたが、手からは微かな白色光が纏わりつき、身体全身が煌いていた。




「こ、これは……」


「ま、まさかそれは!?」


「ユニークスキル会得時に出現するという謎の可視光線!」




わざわざ丁寧に教えてくれたのは下部であるゾンビ達だ、


それにしてもユニークスキルとは何だ、


この世界にはゲームの世界みたく登場人物が必殺技を放てるようにでもなっているのだろうか。


そしてそれに応じ、「少しお待ちください!」とおっさんが鞄をいじっていると、


何か小型の機械のようなものを取り出す。


そのポケットサイズ程の機械の上部を「失礼します」、と伝え親指に当てると、


小型機械の映る画面は変わり始め、データのようなものが文字になって出てくる。




「これを見てください!」




おっさんの言う通りに小さい画面に目を凝らし見てみると、そこに書かれていたのは……。








≪ステータス≫


体力  33


攻撃力 4


防御力 33


敏捷  4




≪ユニークスキル≫


『不死身』 


『ゾンビ化』


『プラス化』






事細かにに書いていたステータスだったが、


特に気になったのはこのユニークスキルというものだ、


不死身、ゾンビ化、これはまあ分かる。


だがしかし、このプラス化というものは何なんだ? 


俺が知っているゾンビにそういった習性は無い筈だ。




おっさんに訊いてみると、直ぐにボタンをポチポチと押してくれ、


「これが詳細ですね!」と、再び画面には違う文字が映りだす。




『この能力はイメージする事によって発動出来る。ただし使える対象者はゾンビ化してきた者にのみ限る、自らと対象者を合体するイメージをする事によって対象者の力を自分の物にし、ステータスを混合させる事ができるのである。』




全て読んだがこれだけではイマイチピント来ない、


そもそもイメージという処に違和感だ、対象者というのは俺が今まで噛んできたゾンビ達の事か。




「マスター、何かわかりましたか?」


「うむ、やってみない事には始まらん、だがご苦労だ、この機械はまた使うかもしれん、大事に扱え」


「承知致しました! マスター!」




イメージ……、もし合体するイメージをすれば見た目までもが合体するのか、そこが不可解である。


まずは対象者だ、ドラゴンで試してもいいが見た目がもし変わるのであれば、


俺は女の子になりたいという昔からの夢を実現したい、だとするならば……。




【ヒューマン+ゾンビ】




イメージしたのは紛れもない女の子だ、


そう、それは唯一の女の子でありおっぱいの大きいミラージュである。


ミラージュは自分を好きにしていいとは言っていたが、


下部に対して淫らな行為を行うのはゾンビマスターとしてどうも締まらない気がする。


だとするならば、自分自身が女の子になって自分の豊満なおっぱいを揉むというのが、


唯一誰にも咎められない筈の手段、そして何よりこれはニート時代を過ごした俺の夢でもあった。




「で、できたか? 吾輩ちゃんと女になってる?」


「あ、あれれ? マスターですか? でもその姿って……」


「あ、ああ、ミラージュをイメージしてな」


「は……はあ……」




自分で自分の乳を揉みしだきながら喋っていたからか、


ゾンビ達のほとんどが鼻の下を伸ばし、唯一無表情なのがミラージュの兄であるおっさんである、


ミラージュに至っては頬を何故か赤らめていた、一体どういう感情なのか。




「それにしてもでかすぎるぞ、これじゃあ吾輩の服が破けそうだ」


「でしたら私が代わりのお洋服を用意します、こちらに来てください!」


「あ、ああ頼む」




ミラージュに手首を掴まれ、岩陰にへと連れられた俺は、


彼女の持っていた予備の服とブラを着用する事にする。


初めてのブラだったため、少し恥ずかしさはあったが、ブラのサイズはピッタリと胸に収まる。


その際ミラージュには中年オヤジのようなヤラシイ目つきで身体を舐め回される。


自分と同じ身体の筈なのに性的に興奮するとは、ミラージュは上級性癖を持っているのだろう。


だがしかし肌の色はミラージュと違って人間とほぼ同じ薄いオレンジ色である、


この姿なら人間のいる街に一人で行っても、ゾンビだとばれる事は無いだろう。




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