つかみどころのない色

教室に入ったら、あれからもう時計は3周していた。

あのあと、お昼に唐揚げを食べたいなあって鶏肉をぶつ切りにするとこから始めて、食べ過ぎちゃってまた足りなくなったご飯を炊き直して、歩く途中でしましまの猫にあって。


マイペースって、聞こえはいいけど。ぼくのは完全にのろまで


先生にもいつも通りこってりしぼられて。

まあいいよ、だって今から大好きな授業だもん。


「さあ、今日はもう解散だが。明日以降も普通に学校あるぞー?亜麻音みたいに遅れんなよ〜?」


ひどいなあ先生。ぼくみたいになんて、


教室の隅からちらほらと

「そんなダイナミックな遅れ方亜麻音以外しませーん」とか


ダイナミックって何だよ…おおらかって言ってよ。


まあいいけど、じゃあ明日は遅れないように…。

…………?


あれ、まって。

ぼくの大好きな「授業」は…?


「何言ってるんだ亜麻音。記憶までダイナミックに忘れてきたか?」


いやダイナミックはもういいってばおおらかって言ってよ…あれ?記憶?


「今日は一年の入学式準備だから午後はないぞ?」



____________



入学式…そういえばそんな時期だし、そんなこと誰かが言っていたような気がしなくもない。

えー…午前で授業が終わるならぼくは来なくたって良かったじゃないか…。

損した気分だ。




でも、新入生か。

というか、ぼくもう先輩なのか


生来。のらりくらりと揺蕩うように生きてきたぼくは、少し特殊な生い立ちもあってなのか人付き合いが苦手だ。

こんな風に頭ではペラペラいらないことを考えているものの、実際口に出してみようとすると とんと上手くいかない。

もちろん最初は思ったことくらいは口に出せる活発な少年だったとも。でも歳を重ねるにつれて、発した言葉に 欲しい返事が必ず帰ってくるわけではないことを知ってしまった。

気持ちを丸ごと伝えても 偽りさえ返してもらえないことを。

そのおかげで中学校では友達はいなかった。

高校に入って、校風のため人数が少ないってこともあるんだろうけど 何よりみんなの人柄が良いのか、こんなぼくも普通にクラスの一員として扱ってくれる。

それでも、ちゃんとした「友達」は一人もいないけど。

そんなものが欲しいと願うことは少しわがままだなって 思ってる。



自分のことをつらつら語ってしまっているうちに、もう随分家の近くまで歩いた。まあ要はこんなぼくが先輩なんか務まるんだろうかってことが言いたかったんだけど。


「…無理だよなあ」



せめて、魅入られた色がもっとはっきりした色だったらよかったな。こんなマイナーな色よりも、例えば何者にも負けないような黒とか。誰しもに愛されるような白とか。

そんな風に思いを馳せて、また誰もいない家で消費し損ねたお弁当を食べるんだ。


叶うなら、一緒にご飯を食べてくれる友達がいたら。きっと幸せって思えるだろう。


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透きとおる世界 るちあさん @ruchiaguri

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