最終話 コップの中の漣と
父親は私が開けたばかりの窓を閉め、声が外に漏れないように配慮する。気持ちの良い夜風が消えた室内で、私の肌は再びじんわりと汗を噴き出した。
熱い体が私の体を覆いかぶさってくる。私はとっくに抵抗をすることを放棄してしまっていた。
それから何も感じない時間がひたすらに進む。私の口からときどき吐かれる、すごいや気持ち良いといった言葉だけが上滑りして響いていた。
その目は誰を見ているのだろう。父親を見ているのだろうか。それとも私を見ているのだろうか。ただ視線は一直線に、どこかを見つめているということだけは分かった。
その間も父親のボルテージはどんどんと上がってゆく。
◆◆◆
ようやく父親から解放され部屋に残された私は、扉が自然と開かないことを確認して改めて大きく扉を閉めた。
もしかしたらあの目玉は、クラスの女子の誰かがかけた呪いなのかもしれない。
私は汚れた体をウェットティッシュで拭き取りながら、思考をあの目玉のことで埋め尽くそうと一生懸命になっていた。
あの目玉は呪いなのだろうか。そうだとしたら誰がかけたものなのだろうか。結界は本当に役に立ったのか。
一瞬チラと脳裏に、スマートフォンの画面越しにこちらを覗く母親の姿が映ったのだが、私はブンブンと頭を振ってそれを放り投げた。
そういえばと、結界であるコップの水を確かめると、コップの中が漣を立てているのが分かった。
やはり私は誰かに呪われたのだと苦笑した。
コップの中の漣 ハムヤク クウ @hamyaku_kuu
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