第四話 パパと

 シャワーが程よい勢いで私の体の灰汁あくさらってゆく。今は少し気持ちが暗くなっているので、もう少しシャワーの勢いを強め汚れを洗い流してもらうことにした。

 私の異性を誘惑する悪癖は母親譲りだったらしい。そのせいで人の思い人を意図せず私に引き付けてしまう。私自身、男性と関係を持ちたいとは思ってもいないのに。


 インターネットにあるまとめサイトにある『呪いをかける方法』のページ。そこに載っている『恋敵の体を壊す』という呪いを、私はかけられても仕方がないのかななどと考える。

 しばらくそのままシャワーだけを浴びていると、さすがに勢いを強めすぎたようで私は息ができなくておぼれかけてしまった。



◆◆◆



 お風呂に入り歯を磨き、すっきりさっぱりとした私は部屋の明かりをつけないままベッドへ飛び込んだ。このまま早く眠ってしまいたい。

 そういえばと、結界であるコップの中を確かめると漣一つ立っておらず平和なものだ。とはいえ、こんなもの一切信用などしていないのだけれど。


 お風呂から上がったばかりの体に寝間着のパジャマが張り付くのを感じると、私はうっとうしさを感じて部屋の窓を半分開けることにした。夜風が通って気持ちがいい。


 そうして涼んでいるとノックもなしに部屋の扉が開かれる。廊下に照らす照明が逆光となってその者の姿のほとんどが分からない。

 分かるのはドアノブを持つゴツイ手と私の部屋に入るのに一切遠慮をすることがないということだけだ。


 その者がバタンと扉を閉めると、再び部屋は真っ暗となった。


「愛蜜、ちゃんとお風呂に入って待っていてくれるなんて、なんていい子に育ったんだ」

「……パパがそうしろって言ったんじゃない」

「偉いぞ。二人きりのときにちゃんとパパと呼ぶようにもなって。ご褒美だ」


 そうして父親は私の唇に自分の唇を重ねてくる。せっかく体を洗ったのに、せっかく汚れが落ちたと思ったのに、結局今日もまたけがれてしまうのだろう。

 父親がほぼ毎晩、私の部屋に押しかけてくるようになったのは、確か私が自分の部屋を欲しがり手に入れた小学四年の頃だったと思う。


 父親は抵抗する私を力で押さえつけ、無理やり体と心の自由を奪った。

 異性の恐怖を叩きつけられた私は、そんな自分を守るように周りの誰も性を持つ者として認識しなくなった。


 だからこそ私は周りと精神的なつながりだけを求めていたのだが、男と女のカテゴリーはそう簡単には崩れないらしい。そのギャップに私は辛さを感じてしまう。

 まったく私は異性を引き付けようとも引き付けたいとも願わないのに、クラスの男子は私を性的なものを見る目で見てくるし、父親は私を異性として扱ってくる。


 そしてそのせいで恨みを受けてしまう始末。何も特別なものなど欲しいとも思っていないのに、どうして神様は私なんかに与えてくれるのだろうか。

 その分友達に分けてあげられればいいのに。その分父親と母親が仲良くなってくれれば嬉しいのに。


 私にはどうしても異性からの好意を受けたいとは思えないのである。

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