まだ読み途中ですが一旦レビューを。
本作は無職住所不定のおっさん主人公が美少女とウハウハ……なんてできずに、なんだかんだで尻ぬぐいさせられながらも、得意の武術で無双していくお話。
ぐうたらで隙あらば楽をしようとするおっさん・ダン。こんなおっさんそばにいたら嫌だなと思うかもしれません。でも安心してください、一章の最後にはおっさんがイケメンに見えているはずです。
そして王道のファンタジーに見せかけて、垣間見える「インターミッション」の存在。一体どんなどんでん返しが待っているのだろうかと、巧みな構成に胸が躍ります。
描写の鮮やかさはその世界の光景がありありと目に浮かび、無駄のないテンポの良さがとても読みやすくて、ぐいぐいと続きに引き込まれていく傑作です!
本作はレベルやステータスが可視化された世界を舞台にした冒険ファンタジーです。
とは言え、これまでも武術をテーマにした作品をカクヨムに掲載してきた梧桐氏らしく、主人公は武術の使い手で「爆風」という風魔法を組み合わせて戦うスタイルです。
さて、本作でユニークなのは各種パラメータが可視化されていて、登場人物たちの思考が可視化されたレベルなり能力値なりに引きずられがちだということでしょう。強ければ賞賛され、弱い者は侮られる。個々人がそうというだけでなく、社会全体がそのようになっています。
だからレベル4で無職で中年の主人公ダンは、社会的に評価されることはありません。たとえ屈強な兵士を次々と殺害した恐るべき魔獣を倒そうとも、社会は彼の目に見えない強さを認めようとはしません。ダン自身もそれで良いと思ってはいた節もありますが、この辺りは人の評価を気にしない性格だったからというだけでなく、彼がかつて体験した『氷河戦争』(これは言うまでもなく、2020年現在30代半ばから40代半ばくらいの人たちが体験したアレをモチーフにしたものでしょう)の過酷さからくるニヒリズムという側面もあるかと思います。
へらへらとだらしない無職中年的な顔の裏で凍り付いた心――それを溶かし、再び燃やすに至った理由については、是非作品を読んで確かめていただきたいところですが、少しだけ陳腐な補足をするのであれば「ステータスは全てではない」「要は戦い方だ」「例え社会が彼の足跡にそっぽを向いたとしても、見ている者はいる」といったところでしょうか。本作は年を重ねて決して若いとは言えなくなってしまった人々への応援歌としても、読みとくことができるのです。
魂を燃やせ。たとえこの世界がステータスに支配されたシステムの産物だったとしても。
……それはそれとして、無職中年やるときはやるよおじさんが好みのタイプという人には文句なくお勧めです。FGOのヘクトールおじさんはもちろん大好きだけどなんだかんだでかっこよすぎるところあるよね、もっともっとかっこ悪いおじさんのかっこいいところがみたいんだよ(錯乱)なんて人には確実に刺さるかと思いますよ。