シーサイドブルー

カイ

第1話

 海辺で笑う彼女の写真を、大切に持っている。もう彼女は記憶の中にしか存在しない。その記憶でさえも曖昧になってきている。

「ねえ、侑くんはさ、好きな人とかいないの。」

 彼女になる前の会話も。

「あー、侑くんに会いたいな。」

 彼女になったあとの電話の向こうの声も。

 ざざざ、ざざざ。波が全部流していく。最初からなにもなかったかのように。まるで存在なんかなかったみたいに。

 彼女のいない世界は退屈だ。そう思っている。なにも感じないし、何より生きる意味を見失った。虚無感しかない。

 何度もこの世界が終わればいいと思った。何度も消えたいと叫んだ。

 死んだ先に何かがあるわけじゃない。そんなことわかっている。でも僕の中の青い感情は消えない。

 

 

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シーサイドブルー カイ @kai_000

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