嗚呼、自堕落街道一直線
荻窪太郎
第1話 清掃員のババアと仲良い奴大体クズ
圧倒的な達成感と高揚感とは裏腹に、眼球が奥の方から痛みチカチカする。胃は今にも嘔吐しそうな程熱く、頭はズキズキと痛み、服はヤニ臭い。それでも俺は、12月の早朝という寒空の下、駅から大学に向かう足を止めるわけにはいかないのだ。単位という、ひとつなぎの
まぁ、随分物々しい言い方をしたが要するに、今日の1限を休んでしまうと決まってしまうのだ、3度目の留年が。その為、俺「九頭 大騎」《くず たいき》教育学部4年は、2日間徹夜で麻雀を打った老骨に鞭を打って、教室に向かうのであった。
約2時間の講義を終え、俺は全速力で喫煙所に駆け込む。
我が愛しの母校は、喫煙所が校門を入ってすぐ右手の広場に併設されている。晴れの日は広々喫煙出来るが、反対に雨の日は、少ない屋根の下に喫煙者達が身を寄せ合い、まさに芋洗い状態である。
幸い今日は雲一つも無い快晴だ。肌寒い風はあるが、温かい缶コーヒーを片手に、日向のベンチに腰掛け、愛煙しているラクダの絵が描かれている銘柄の煙草に火を付け、煙を吸い込むと、とても心地よい。
少し
声の主は、万年金欠で、俺同様に現在3回目の大学4年を送っている「針村 賢一」《はりむら けんいち》という男だ。髭を蓄えた長い顎、そして二十歳半ばにして既に禿げかけている頭が特徴的だ。身長は162cmと小柄だが、体重は80㎏近くあり、しかも元々体育会系ラグビー部に居たので、体重のほとんどが筋肉という気色の悪い奴だ。この体型で動きが素早く、色の黒い針村は、我々仲間内で「ゴキちゃん」という不名誉極まりない渾名で呼ばれている。しかもこの男、声優のオタク、俗に言う声豚って奴なのだから始末が悪い。そのことが原因で2度の留年をしているのだからもう、どうしようもない奴なのだ。いつかこの男が留年した経緯を詳しく話す機会を作るとしよう。
「すまん、俺のルールでは借金の時効は2週間なんだ。つまり返済の義務は…おっと、冗談だから火の付いた煙草を、俺の目に突っ込もうとしないでくれ。」
全く、怖い男だ。冗談の一つも通じやしない。俺は渋々財布から4万円を取り出し針村に渡した。
「利子付けないだけ感謝しろよ、九頭。お前は絶対クレジットカード作ったり学生ローンには手を出すなよ。破産するからな~」
咥え煙草の針村が、金を受け取りながらニヤニヤしながら俺を煽りやがる。あの下卑た笑みを浮かべる顔を、デンプシーロールで粉々にしたいぜ。
「うるせえなゴキちゃん、そんなこととっくに知ってるから俺は公的機関以外から、お金を借りるのだよ。」
「お前ほんとクズだよな~ そういう所だぞ、お前が大学一のクズって言われるところ。」
確かに俺はクズだが、同類に言われると腹立たしいことこの上ない。まぁこの自分を棚に上げて人をディする姿勢こそが、クズのスタンスであることは明確なんだが...釈然としない感情を弄んでいると、見知った3人のババアの姦しい《かしましい》声が聞こえてくる。
「また、ギャンブルで負けたのかい、九頭君よ?」金髪ポニーテールのババアでギャンブル狂の越智さんの声だ。
「風俗ばっかり行くからお金無いんだよ。」白髪のババアで、若いころは錦糸町でランパブ嬢をしていた宮本さん。
「九頭君か針村君、煙草1本くれない?」ババア3人組の中で一番若くて綺麗なバツ4の自称恋愛体質の高野さん。
彼女たちは大学の清掃員で、我々は常に青い作業着を着ている彼女たちを「青い清掃員たち」《ブルーエンジェルス》と呼んでいる。
その中でも彼女たち3人は、仕事をしている時間より、喫煙所で駄弁っている時間の方が長いと学生たちの間で噂になっている。最も、いつも喫煙所にいる我々が高確率でエンカウントする事を鑑みると、噂ではなく事実であろう。
「あ、九頭が2徹マンで12万勝ったんで、みんなに飲み物買ってくれるそうです~」
針村め、余計なことを...仕方ない。黄色い歓声を上げるブルーエンジェルスに施しをやるかな...
針村とブルーエンジェルスのババア達との雑談を終え、授業後針村とパチンコを打ち、飲みに行く約束をして、俺は午後の
嗚呼、自堕落街道一直線 荻窪太郎 @taiki0322
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