第13話

「……で、やってきたわけだけれどさ」


 数時間後。

 僕は彼女の家にやってきていた。

 彼女の家はとても古く、大きな家だった。その家に入ることは烏滸がましく思われることもあったけれど、しかしながら、彼女が入ってくれと言うのだからそれについては致し方ない話だ。いや、当然だと言えるだろう。当然だ。その通りだ。

 結局の話、僕は彼女のことを嫌っているかと言われると、そうでもない、僕は彼女のことを好んでいるかと言われると、恥ずかしい話になってしまうけれど、まあ、間違いではないから否定してないでおこう。


「何がしたいんだい、結局の所」

「ああ、それね。……触らないで一つ一つが魔術式に重要な要素だから」

「……魔術式?」


 地下室に連れ込まれた僕は、一つ一つの物品に目線を送る。割れかけの瓶、たくさんの本、それに床に書き記された円と四角形を組み合わせた図形。


「これのこと?」

「そう。だから触らないで、って言ったでしょ!」

「そう言われても……。気になる物は気になるだろ。教えてくれたっていいじゃあないか。いったい今から何をやらかすつもりだい?」


 やらかしていたことは何かと僕の中では分かっていたので、どうせ今回もその類いのことだろう――そう勝手に思い込んでいた。

 彼女の話は続く。


「何を言っているの! また私がやらかすようなものいいだけれど、そんなことは絶対にあり得ないのよ!」

「そうは言われてもね……」

「だってあなた、いつもやらかすじゃあない。だから、私も言っておくけれど、やらかさないでよ。それによって、私がどのような被害を受けるか分かったものじゃあない」

「そんなことを言われてもね、っと」


 積み上げられた本を避けながら、僕は言った。

 彼女は溜息を吐きながら僕を見ると、さらに話を続けた。


「一応言っておくけれど、これは誰にも見られていないでしょうね? 見られていないことを前提に話をするけれど、これは禁忌なのよ。普通なら誰もやりたがらない、最低最悪の魔術式」

「じゃあ、何故やろうとするのさ?」

「それは、私がそれが危険ではないことを証明したいからに決まっているじゃあない!」


 自分勝手すぎる。

 いくら何でも、それは自分勝手な物言いだし、言い分としても自己主張が激しいと言っても良いだろう。


「さあ、それじゃあ、始めるわよ。魔術式を。これから行うことが、どんなことが起きようとも、決して恨みっこなしね。それぐらいは常識よね?」

「おい。それは聞いていないぞ! いったい何をしでかすつもりだ」

「カミを、ここに下ろす」


 彼女は、はっきりと言い放った。


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魔術同盟 The magical alliance 巫夏希 @natsuki_miko

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