第二章 神下ろし(髪、下ろし)

第12話



「これはおまじない」

「おまじない?」

「そう。私とあなたのおまじない。これであなたも魔術を見ることが出来るし、私の魔術をあなたが使うことが出来る。『同盟』に近いものなのかもしれないけれど」

「同盟?」

「そう。魔術師が同盟を組むことは滅多にないのだけれど、」

「けれど?」

「私と、あなたは別」

「別って?」

「特別ってこと」


 それが、彼女と僕の小話。

 かつての僕と彼女を――結ぶ同盟の始まり。

 そしてそれは今も続き、終わることはない。





 西暦二〇〇六年。

 北関東の田舎と言っても過言ではない場所に、僕たちは居た。関東地方と言っても東京を少し出ればローカル線よろしく非電化の区間は存在するし、一時間に一本未満列車(電化されていない電車は、電車ではなく列車と呼んだ方が良いだろう)が通るだけの路線も存在する。

 下田第一高等学校。

 ここが僕と彼女の通っていた高校だ。


「おーい、シュガー。何をしているんだー!」


 校門から僕を呼ぶ声が聞こえる。シュガーとは僕の名前を一ひねりも二ひねりもこねくり回したいわゆるニックネームであり、まあ、簡単に言ってしまえば僕の名字である『佐藤』を英語読みすればそうなるだけの話なのだけれど。

 僕は彼女の言葉を聞いて、深々と溜息を吐く。

 別に彼女とともに行動することが嫌いなわけじゃあない。既に二人とも都内への大学の進学が決定しているし、残された高校生活をただのんびりと過ごしているだけにとどまらないのである。


「……頼むから校門で大声で呼ぶのを止めてくれよ」


 僕は持っていた鞄を彼女が乗る自転車の荷物かごに入れた。鞄が二つ入ればかごもパンパンにいっぱいになってしまう。それ以上入る余地がない、ということだ。


「別に良いでしょ。あたしとあんたの関係性が崩れるわけでもない。そうでしょ、シュガー」

「それはそうかもしれないけれど……」

「はい、じゃあ、決まり!」


 マフラーに口元を入れて、彼女は言った。


「今日、用事が無いなら、私の居る離れに来て。やることがあるから」

「やることっていったい……?」

「内緒」


 そうして彼女はそのまま坂を下りていった。

 ……ちょっと待った。僕の鞄を入れていったままじゃあないか!


「待ってくれー!」


 僕は彼女を追いかけるように、駆けていくのだった。

 ……結局、彼女に追いついたのは、坂を下りきってしばらくして、彼女の家の傍にあるコンビニの駐車場だったのだけれど。


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