第11話
「導かないと! 私が導かないといけないのですよ、だって私は……!」
「五月蠅い」
そして、彼女は持っていたナイフをそのまま少女の身体に突き刺した。
それは一瞬の出来事だった。
「が……ぐ……、な、何を?」
「俺の力を舐めてもらっちゃあ困るね。俺は、力を使うことが出来る。人間の身体を媒体にしているだけに過ぎないから、俺は今制約をかけているだけだ。そしてその力とは、」
「まさか、……信じられない! あなた、『神殺しの神』を下ろしたとでも言うの!?」
「お前の能力もなかなかなものだったがな……。まるで死神みたいな能力だ。しかしながら、俺の力には敵いやしない。何せ俺の力は『神』や『魔術』の裁ち切りをすることが出来る力を持っている。……それは、俺をも切ることが出来る不思議な力だ。……まあ、今は俺が制約をかけているから不可能なことだからな」
すう、と影が消えていくように見えた。
それを見た少女は絶望する。
「そんな、そんな……!」
「諦めろ。てめえはもうお終いだ。殺すわけにも行かねえし、生かしておくにもそれなりの罰が必要だ。罪を受け入れて、更生しろ」
こうして。
呆気なくというか、なんとなくというか。
新宿に蔓延る連続飛び降り事件は幕を下ろすのだった。
◇◇◇
「それにしても助かったよ、まさか『みどりの星』が絡んでいるとはな」
数日後。
僕と杏、そして所長は近所のうなぎ屋に来ていた。うな重を馳走になっているというわけだが、それ以上に僕は嬉しいことがある。
「それにしても、まったく覚えが無いというかなんというか……。一年間、私は何をしていたのかしら?」
杏が元の状態に戻ったことである。
「大方、神が精神を戻してくれたのだろうよ。しかし魔術としてのお前の力はたぐいまれなるものがある。それを少しは有効活用しないとならんだろうな」
お吸い物を飲みながら、所長は言った。
「……それにしてもこんな危険な仕事をしているとは、知らなかったぞ」
僕に問いかける杏。
「だって大学に行くにもアルバイトをしないとやっていられないぐらいには貧乏だからね、僕は」
「杏の看病をしていたことも、金欠の原因だろうが。……意識も戻ったし、お前も金を稼いだ方が良いんじゃあないか?」
「それもそうねえ、そうしようかな」
杏の言葉に、思わず噎せ返りそうになった僕。
そして杏はさらに続けた。
「だって、それであなたの負担が減るなら、それでいいでしょう? 『同盟』を組んだ仲、忘れたとは言わせないわよ」
忘れるか。
忘れてたまるものか。
後悔に後悔を重ねた、一年前のあの出来事を忘れてなるものか。
同盟を結んでから、しばらくしてからの、あの出来事。
一年前に出逢った、殺人鬼の魔術師に出逢ったあの日のことを――。
(死神/師に神――完)
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