秋の微熱
あるファミレスでの出来事。季節は秋。肌寒いこの季節、苺が現れるはずもない。
アイスは、この時を待っていた。
「チョコさん……私、今度こそ貴方と一緒になれるのね」
目の前にはパフェの容器。隣には愛しのチョコレートシロップ。彼女はうっとりと彼に話しかけていた。
「やめてくれ、アイス。僕は、僕は……苺と共にいたかった」
「でも、今は苺はいないわ。ねぇチョコさん、あんな春しか貴方の隣にいられない苺と違って、私なら一年中貴方と共にいられるのよ?」
「何とでも言え。たとえ少しの間しか会えなくても、僕は苺を愛してる」
チョコの言葉にアイスは沈黙するしかなかった。あぁでも、それでももうすぐチョコと同じ器に盛り付けられるのだ。たとえ彼に愛されることがなくとも、人間の口に運ばれるまで、いやその後でさえ彼と共にいられる。否応でも期待は高まった。
そしてついに、アイスの蓋が取られる。早く、早く私をチョコさんの元へ……。
高鳴る胸、熱い頬。彼女をとろかすのは、恋の微熱。
「あれ、先輩。アイス溶けてますよ」
「ええ?おっかしーなー、冷凍庫壊れたのか?」
「これじゃパフェは無理っスね。俺、お客様に謝ってきます」
「おー、悪いな」
運命は非情にも、彼女の願いを打ち砕いた。
閑話休題? 時雨ハル @sigurehal
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