最終話 血肉

 ガンスティールが宮廷を出たときには、既に夜が明けていた。東方から赤い光が静寂と化した街を照らしていた。

「ガンスティール、外国に渡りたくなったら俺に連絡をくれ。すぐに工面してやる」

 宮廷正門の下、日傘を差したオディナロだけがガンスティールを見送った。

「ありがとう、オディナロ。でも私はこの国の行く末をしばらく見守っていくつもりだ」

 オディナロは今もガンスティールの親友のままだった。ガンスティールとユノーの親子関係をうらやましく思い、あえて国外追放させる手立てを考えていたという。彼自身も秘密警察に監視されていた為ガンスティールのために動けることは少なかったが。

「シェンレイの具合はどうだ」

「あの子は俺と一緒に宮廷に残る事になった。聖屍節の間は交通機関も動かないからな。その間に休養させてからガンスティールの屋敷に送るつもりだ」

 オディナロとシェンレイはいつの間にか仲が良くなった様で、倒れたシェンレイは彼が介抱していた。オディナロによるとシェンレイは、自ら腹を割いたユノーを見て気を失ってから未だ目が覚めていないそうだ。オムニバル八日目の夜に中庭にいたのはきっとこの二人なのだろうとガンスティールは思った。

「じゃあな、ガンスティール」

「あぁ。後の事はよろしく頼む」

 ガンスティールは、生きている者が浴びてはいけないはずであった聖屍節の朝日をその身に受けながら、宮廷を背に歩き出した。

「お前は、どこに行くつもりなんだ」

 オディナロの声が街に響いたが、ガンスティールは答えなかった。

 メインストリートは先日までの喧騒を忘れ、全く静まり返っていた。

 路上には食べ残しが散乱し腐敗している。かつて生命だった物の姿だった。草も木も鳥も獣も虫も蜥蜴も亜人も人も、全て生きているから他の生命を食べ、そして生きている。食べられて死んでいく。こうして姿を変え、その屍でガンスティールが歩く道を埋めている。

 ガンスティールはその屍の道を踏みしめ、歩いていった。

 彼がどこへ行くのかは誰にも分からない。だがこれだけは言える。彼がどこへ行こうと、それは彼の中のユノーと共に。


     完

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満足なエルフィン 雪下淡花 @u3game

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