最終章【悠斗】 辿り着いた未来

Scene56. 2月15日 朝

「おはよーっ、ユウ!」

「おはよう、ハル」

 俺が家を出ると、そこには小春が待っていた。

 小春は小さな包みを持っている。それをおずおずと差しだし、俺にくれた。

「一日遅れちゃったけど……。ハッピーバレンタイン、ユウ」

「ありがとう、ハル」

 俺は包みを開ける。

「クッキー?」

 俺は小さな星型のお菓子をつまみあげた。

「そう、チョコレート・クッキー。手作りだよー」

 俺は小春に目で催促され、一口でそれを頬張った。

「んー……」

 咀嚼すると優しい甘さが口の中に広がった。

 口の中の物を全部飲みこんでから、俺は小春に微笑みかけた。

「おいしいよ」

 それを聞いた小春は目を潤ませながらその場で小さくステップする。

「うーっ、良かったぁ! ありがとう、ユウ」

「それはこっちの台詞だろ……」

 ポンポンと小春の頭を撫でてやる。

 小春は落ち着きを取り戻して、目もとの涙をぬぐった。

 こうやって俺たち2人がまた昔みたいに仲良くなれるなんて、思ってもいなかった。

 あの不思議なペンダントのおかげで随分と大変な目にあわされたように思う。

 しかし俺は目の前で小春を失った事で、今までよりもずっと小春の事を大切に思えるようになっていた。

 カラオケも、ゲーセンも、それ以上の事も、楽しい事はこれから先いっぱいあるはずだ。

 これから先も、小春を連れてたくさんの楽しい事をしていきたい。

 俺にこの未来を与えてくれた、小春の為にも。


   ×××


「そうだ、ユウ。プレゼントがもう一つあるんだ」

 小春は思い出したように鞄をあさって小さな箱を取り出した。

「ん、何だ?」

 俺は渡された箱を開けて中身を確かめる。

 俺を導いてくれたあの二重螺旋のペンダントがそこにあった。

「これ、通販で買ったの。願いを込めると過去に戻してくれるペンダントなんだって」

 小春は嬉しそうに解説してくれる。

「ユウとまた昔みたいに仲良くなりたいなーって願いを込めておいたんだよ。これのおかげかもね、またユウと仲良くなれたのって!」

 俺は恐る恐るそのペンダントを手に取る。

 何も起きないようだ。

「……何も起きるわけ無いよな」

「んー? 何か言った?」

「いや、なにも」

 俺はそのペンダントを首に提げてみる。

 この平和な日常を手に入れる為に俺と小春が繰り返してきた日々の重さが詰め込まれている様な気がした。

「ハルは、過去に戻りたいって思った事あるか?」

「あったけど、今はもう無いよ。ユウとまたこうやって仲良くなれたんだもん」

「そうか、そうだな」

「ユウは?」

「俺も、無いよ」

 俺は小春と手を繋ぎながら、あの頃に戻って意地を張った事を謝りたいと思った。

 胸元が軽くなった事とペンダントを無くした事は小春に黙っておこうと思う。


   完


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バレンタインデーは2度こないっ 雪下淡花 @u3game

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