いちからいきる

@kkkkko

第1話

目がぼやける、無いものを求めて指が疼く、心臓がズキズキと脈打つ。


私はどうも生きていないようだ。

今日も1日、何に時間を費やしているのかもわからないまま、夜が更けた。


私が心の底でバカにしていたものは、すべて同じヒトの手から作られたものだった。

創れもせず、使えもせずに、ただ安易な場所に閉じこもるばかり。うんざりした。意味の無い通知に光るケータイにもイライラさせられる。


そうだ、旅に出よう。数枚の下着とワンピースを持って。

着るものも、歩く方角も、そのペースも、何を食べるかも、すべて自分で決めるんだ。


ペンと紙は持って行こう。

あるがままに言葉を紡いで、それが誰より劣るかとか、気にもしないで書き続ける。


夜明けの始発電車に私は乗り込んだ。21歳の私は、初めて誰にも相談せずに家を出た。


目指した先は長野の山奥だ。

パン屋兼宿を経営している藤崎さんのもとを頼った。


藤崎さんは馬のように優しいおじさんだ。

アルバイト先の課長を勤めていた。大型書店の激務から逃れ、もっとお客さんとゆっくり接したい、という穏やかな気持ちで彼は長野の田舎町を選んだ。

彼と別れる時、不思議とまた出会える気がしていた。

私の勝手な憶測かもしれないが。

何かと気を配ってくれていた藤崎さんなら、突然顔を出しても怒りはしないだろう。

もし不快そうだったら、別の町へ行けばいいのだ。


電車に揺られていると、苦しかったこと、楽しかったことが外の景色とともに流れて行った。中吊り広告の無機質さに安堵の息を漏らす。私が座った先頭車両には、車掌さんと疲れ切って眠っているサラリーマンしかいなかった。


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