スレンダー美女=知り合い?

コツコツコツコツとヒールの踵が地面に軽く打ち付けられるような音がテンポ早く廊下に響く。

その音の主こそ、私のとなりにいる上司の劔野妖光つるぎのみつきさんだ。

彼女、否、私の上司は才色兼備を型どった人間で、しかもAランク保持者という。

劔野妖光を詳しく話すとすればまず最初に来るのは外見やスタイルなどの美しき容姿だろう。

麗しき腰までかかるような長い黒髪に、美脚がスラーと長い八頭身から繰り出される凛としたクールな態度、整った顔立ち。

まるで、雑誌の一流モデルを鼻で笑うかのような美しさだ。私なんて、敵いっこない。

それに、劔野妖光という美女は容姿端麗さだけではなく、数多くの才能に恵まれている、いわゆる天才だ。

私たちが働く、「ボーダーBアクションAスレイヤーズS」通称BASバスの幹部であり、度々現れ、最近では頻出が多くなっている黒霧現象による魔属を対象に防衛及び抹殺等の実践を中心とした特別チームの中でも、第一班Bチームのリーダとして活躍が目覚ましい。

又、彼女の持つ能力、妖光の支配者オーラズルーラーは、Aランクとして認められており、私は見たことが無いのだが、戦闘中の変幻自在のオーロラを扱い敵を流れるように倒していく様は、なんとも妖しく美しいものだという。そしてこう呼ばれるようになった、「殺戮のオーロラ姫」と。

そう、これほどのありふれた魅力が詰まった人間こそが劔野妖光なのだと私は彼女と出会ってそう感じた。

劔野妖光は、その美貌と有能さで人気が至極高い。それに老若男女問わずだ。

それほどのスペックを持つ彼女だが、1つだけ欠点がある。しかもその欠点は誰もが知っているものだった。

その名も「不感情症アレキサイミヤ」だ。

彼女は顔色をあまり変えない。

普段から凛とした真顔で過ごしている。それはそれで素敵なのだが、普通の人間からしては少し違和感を感じてしまうところもある。

例えば、冠婚葬祭での飲み会等でも劔野妖光は表情1つ変えない。

ここは笑うところでしょや、ここは泣こうよ!とかが一切通じないのだ。

だからか、BASバスで彼女の表情豊かな姿を見たものは誰もいないだろう。

いや、たった一度だけだが泣いたことがあるとか無いとか噂が流れていたような。まぁ、どうせいつもの嘘噂でしよ。

私は彼女の、上司の説明を意味もなく脳内で話ながら、チラチラと憧れのセンパイ!劔野妖光のキリッとした横顔を眺める。

あぁ、BASバスに入って約4年だけど、妖光センパイの横で歩けるなんて幸せだ!

私の気分は上昇し続ける。多分だらしない顔をしているのだろう。

まぁ、仕方がないことだよ!この帝都支部で劔野妖光と言えば女性全員の憧れだもの。

私はニタニタが止まらないままコツコツとテンポを変えない妖光センパイの背中を追い続ける。

あっ、そういえば……


「センパ……じゃなくて、劔野様」


私ら、女性スレイヤーズはいつしか劔野妖光のことを様付けで呼ぶようになっていた。まぁ、これも仕方ないよね!


「なに?」


妖光センパイは薄く繊細な声でそう言った。はぁ、何回でも聞いていたい!


「今から向かうのは帝都から直々に推薦されたランカーの所なんですよね?」


「………」


「確かだと、約束だと自力で来るはずですよね?」


「………」


「なのにどうして監禁部屋なんかに入れられているんでしょうか?」


「………」


あれ?さっきから返事が全く無いぞ?ヤバイ、私なんか悪いこと言ったかな?

私は嫌われてくない一心で口を閉じた。震える手を握りしめ、チラチラと妖光センパイを見る。

そして、わかる。

なんか!めっちゃイライラしている!!!

表情は何一つ変わっていないのだけど、なんかオーラが違う!

先程まではひんやりとクールな雰囲気を醸し出していたけど、今ではマグマのような威圧感がにじみ出ている!

ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!これは絶対にヤバイ!

それほどイライラするなんて、その推薦者は一体全体何を犯したんだ!

このままじゃ殺されてもおかしくないぞ!

私はすぐさま下に目をそらす。

コツコツコツコツとテンポが少し速くなった足音についていきながら私は再び怯えだす。

コツコツコツコツ……止まった。


「櫻子さん、着きましたよ」


冷たい声でそう言われ、私は顔をあげる。

目の前には不思議な監禁所がある。この監禁所にはドアが無い。いわゆる完全密室だ。

特殊な技術により、出口も入口さえも見れないようになっている。

私がBASバスに入ったばかりの研修の際に誤ってこの監禁所に取り残されたことがあり、私はそれ以来トラウマとなっているのはあまり皆にはバレたくない。

だってしょうがないじゃん!出口も何もなく薄暗くて何がいるのか?何が起きているのか?そして何が起きるのかがわからない状況下に落ちてしまったのだから。

それはそれはパニックになって気を失うよ。

とはいえ、この監禁所内は映像として写し出されている。

それを見ながら、彼?の情報を口に出す。


続く


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虫嫌いの消滅神王(ムニキス) 高本マサレ @gushitomoki

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