ボトル

 シャンプーボトルを風呂場にしばらく置きっぱなしにしていたら、2つのうちの片方が空になっていた。


 我が家はシャンプー等のバスグッズを家族別々に持っていた。そして、私の物だけは風呂場に置かずその都度、お風呂へ持ち込んで使っていた。

 私のシャンプーボトルはどちらも透明で何も書いてないため、私は中身をその液の色で判別していた……それを風呂場に放置するようになってしまってから随分と経つ。


 ボトルを見ると、ヘルパーさんが家族の物だと勘違いしたのだろう(私の家には寝たきりのお婆さんが住んでいるのだ)。それぞれを区別するため、各ボトルの底にはシャンプー、リンスと書いてあった。シャンプーと書かれたものには液がまだ残っていた。私は仕方なくそれを使って体を洗うことにしたが、 どうしてもせない事があるため、介護用のブザーで母を呼びつけることにした。


 別にボトルを勝手に使われた事に文句があるわけでは無かった。

 私が今まで風呂場にバスグッズを置いていなかったのは、この様な事態を避けるためであったが、それが段々と面倒になっていた。置いてあるからと言って他人の物を使っていいわけではないが、共用スペースの風呂場に置いてあれば手近なシャンプー等をつい使ってしまう事もあるだろう。もちろん今の今まで一言も確認や事後承諾が無かった事には弁明の余地がないが。それも一笑に付すことが可能な話であった。


 ──来ない。


 シャワーを止め、ブザーを鳴らしてから風呂場のドアを開けて、洗面所を眺めながら、「居るか」と声をかけてみたが反応がない。 とは言え相手は(1階のトイレに居るのでなければ)2階の防音室に居るはずで、そうなれば声は聞こえず、ブザーの音が届いても、手が放せない状況であれば降りてくることも難しいだろう。

 ドアから入る寒気に耐えられなくなった私は、仕方なく頭を洗うことにした。


 風呂から出た私は体を拭き、2階へと上がった。

 すると母はやはり手が離せないようである。 私は待とうと思ったが、彼女の方から話しかけてきた。

「忙しくないのか?」 そう聞いたが彼女は問題ないと答えたので、作業をしながら聞いてくれ、と断ったうえで、私は一つ質問をした。

「風呂場に置いてある透明なボトル知ってる?」

 すると彼女は頷くように、シャンプー、リンスと底に書いてある事を知っていた。と言い、こう続けた。

「多分、元はあなたのだった? リンスの方は洗って置いといたわよ」

 なるほど。 私のものだとは薄々気がついていたらしいが、やはりそれは共用物と認識されているようだ。

 やれやれと思いながら、私は話し始めた。


「リンスじゃないよ、あのボトルに入ってたのは“シャンプー”と“ボディーソープ”」


 私は、不敵に笑うべきか顔をしかめるべきか悩みながら続けた。

「それと、“シャンプー”と書いてあったがあの色は“ボディーソープ”だよ」

「え? リンスじゃないの!?  髪洗っちゃった……」

「ひとこと聞きゃあいいのにね」

 ご丁寧に無断で使っていた事まで話してくれた母に、私は呆れ顔を崩さないまま、「それほど気にはしていない」と続けた。

 問題は“シャンプーと書かれたボディーソープ”で体を洗ったあとの“頭を洗うためのシャンプー”が無い事だったが、相手が来ないのでは仕方ない。“許可を取らずに母のシャンプーで洗うことにした”と事後承諾を得た。

 もっとも、それはどうやら私のシャンプーの何倍も高いものだったようで

「え!?  それ私まだ一度も使ってない!」

 と落ち込んだ様子で言っていた。

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随筆と言うお洒落な響きと、エッセイかも分からない曖昧な散文(仮) NPC(作家) @npcauthor

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