よぼういぬ

安良巻祐介

 

 巨大な犬のあとをついて行く夢をよく見る。だいたい暗くて静かな街の狭苦しい裏通りを、ずっと歩き回る。その犬は小山くらいあって、背中を丸めているから頭とか顔とかは見えない。毛並みは灰色で、ぼんやりした街灯をテラテラと反射しているのを見る限り、少し濡れているようである。犬の背からは生臭い匂いが漂っており、頭が痛くなってくるのだが、とにかくついて行かねばならないということだけは強烈に意識している。犬は前足と後ろ脚を交互に出してゆっくりと歩く。前足だけがやたら長く、足の先は人間の手のようになっている。肩幅も妙に広くて、なるべく聞こえないふりをしているけれど、人の言葉によく似た呟きをずっとしてもいるらしい。ここまで思い返し、ふと考えた。それは本当に犬なのだろうか。そもそも何を以てして自分はそれを犬であると考えるのか。そんな事を考え出した瞬間、夢の記憶の中の犬が、見えない筈の顔で振り返ろうとしたので、思わず寝床の中で絶叫し、考えを打ち切った。考えてはいけないのだ。追及しては駄目だったのだ。目が覚めてからすぐに夢を思い出して分析を加えると死が早まるという俗説も浮かんで来て、とにかく気持ちが悪かった。

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よぼういぬ 安良巻祐介 @aramaki88

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