ホルスヘッド

安良巻祐介

 

 夕暮れ時、安価な紙製の鳥頭マスクをすっぽり被って、バイクに跨り土手を疾走していた男が、川の方へ転落して死んだ。マスクの目の部分に穴が無く、前が見えなかったものと思われた。ところが死体のポケットからは以下のような走り書きが見つかった――「生まれ変わったようによく見える。空から俯瞰しているようによく見える。善いものと悪いものとがはっきり見える。今ならなれる。きっとなれる」――薬剤の服用の痕跡などはなかった。メモの筆跡は力強く、小さな紙の端を飛びだして行きそうな勢いで、それを読んだ者に、郷愁と憂鬱の入り混じった、よくわからない思いを催させた。

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ホルスヘッド 安良巻祐介 @aramaki88

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